黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【stay by my side】
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「飛影......今日もゆっくり出来ないんですか?」
「ああ...仕事が.....片付かなくてな」
「ねぇ、飛影?今度はいつ.....会える?」
「いつかは約束出来ん。だが、また近いうちに時間を作る」
毎回同じように繰り返されるやり取り。
----仕事が片付かなくてな------
その言葉が嘘じゃない事は分かってる。
魔界でのパトロールが忙しい事も。
-----近いうちに時間を作る-------
その言葉も嘘じゃない。
どんなに忙しくても、果てしない距離を越えて来てくれる。
たとえ、ほんの僅かな滞在時間しかなくても。
暖かい腕で抱きしめて、
愛の証を刻み付けて........
帰り際、見送る俺に必ずくれる優しい口付け。
ポンッと頭に手を乗せ、貴方の口から出るのは決して破られることのない約束。
「また会いに来る」
その言葉には決して嘘偽りはなくて。
その約束が果たされるのに数週間と間をおいたことはない。
待っていれば、貴方はここに来てくれる。
その腕で包み込んでくれる。
だから........
貴方を見送る時は、涙を流す事がないように。
貴方の妖気が暗闇に溶けきってしまうまでは笑顔でいようって。
そう決めてた。
でもね、飛影......
もう半年以上だよ?
一緒に過ごす時間がただ慌しく過ぎるだけの時間になって。
分かってる。
どんなに無理してでも貴方がこの部屋に降り立ってくれてるのが。
分かってるよ、ちゃんと。
これ以上望むのは我儘だって事ぐらい。
だけど........
本当は一晩中抱きしめてて欲しい。
朝日が昇ってからもずっと傍にいて欲しい。
太陽が沈む瞬間まで一緒にいたい。
別れ際の優しい口付けも、約束もいらないから.....
ただ、貴方と過ごす時間、それだけが.......
暗闇が全てを覆いつくし、生き物達が寝静まった真夜中。
月明かりが照らし出す窓辺に影を連れて降り立ったシルエット。
無用心にも鍵のかからない窓から、いとも容易く室内に入り込む。
背後で何かがバチっと弾ける音がした。
部屋の主によって張り巡らされた結界に、ぶつかった蟲が焼き尽くされた音。
厳重な結界も漆黒のシルエットにだけは、従順なようで。
静かにベッドに近付いた。
月光が微かに照らし出す薄明かりの中、映し出されたのは綺麗な寝顔。
スヤスヤと寝息たてるその姿は全くの無防備。
寝顔にハラリと流れる深紅の髪を一房掬い取り、そっと口付ける。
パサリと零れ落ちた髪の毛が、小さな刺激となり覚醒を促した。
「んンン.......ぇ.....い....?」
意識は少しずつ眠りの淵から起き上がるも、未だ瞳は閉じられたまま。
それでも口元に微笑を湛え、目の前の存在に手を伸ばした。
「飛ぇ........きて......」
フッと空気が揺らめく。
伸びてきた腕を首に絡ませ、その身体をゆっくりと抱き起こす。
「お前は......無防備も大概にしろ。ここにいるのが俺じゃなかったらどうするんだ?犯られても文句は言えんぞ?」
冗談交じりの口調でも、その中には本音がチラリと見え隠れする。
警戒心を全く身に纏わない恋人へのささやかな説教。
なのに......
「あの結界が受け入れるのは飛影だけですもん」
しかっめ面の小言を殺し文句でサラリと流し、キュ〜っと抱きついてきた。
そして零れるのは素直な感情。
「飛影......逢いたかった」
耳元にかかるかすかに熱い息遣いと、甘えるような声を聞けば、たちまち仏頂面が綻んでいく。
“離したくない”とでもいうように抱きついたままの腕を引き剥がした。
「飛影.......ぃ?」
突然消えた温もりに翡翠の瞳に戸惑いが浮かぶ。
肩に置かれた手を見つめ、視線を戻した先.......
瞳一杯に広がった紅い宝石。
消えた温もりの代わりに唇に触れたのは優しい感触。
「ふ......ん......」
啄ばむようなKISSを受けながら、蔵馬の身体がベッドに沈みこんだ。
「ん.....んンン.....ふっっ......」
激しさを増していく口付けに抜けるような吐息が漏れ始める。
割り入った舌は熱を持ちながら口内を翻弄していく。
唾液で濡れた舌がツ〜っと肌をなぞり、身体中に散らすのは愛撫の花。
「はっ....あぁぁんっっ.....ンァっ.....ふっ...うぅンン」
部屋中に響き渡るのは花の香りよりも甘い甘い吐息。
媚薬にも似た官能的な刺激に煽られた舌先が、中心部をなぞりだした。
「ひあっっ.....あぁぁン.....んぁっ......」
巡り巡る快感の波に流され、ひっきりなしに口をつく甘美な喘ぎ声。
滴り落ちる愛液で指を濡らし、蕾の中に差し入れれば、しなやかに仰け反る。
十分に濡れ解れきった菊座に熱い欲望を押し当て、ゆっくりと挿入していく。
「ふ....んンン......んぁっっ....」
小さく身体を震わせ、伸びてきた腕が汗ばむ逞しい背中にギュとしがみついた。
「ねぇ.....んあぁぁ....飛....ぃ...お願い.....」
トロンと蕩けた瞳が飛影を捉え、艶やかに濡れる唇から出た訴え。
緩やかに律動していた腰の動きが止まった。
「蔵馬......どうかしたか?」
「飛影......もし、今日もまた.....すぐに魔界に帰るのなら.....俺が....寝ている間に行って下さいね......あんンンっ.....」
------きっと笑顔で見送れそうにないから------
蔵馬の真意を図りかねるのか、動きを止めたままの背中に回された腕にギュッと力が入った。
「飛影......早く......貴方で一杯にして.....」
零れ落ちそうな程に潤んだ瞳に見つめられ、色めく唇で願いを紡がれたら首を縦にふる以外どうすればいいと言うのだろう?
この世の全ての美を集めたとしても、眼前の存在の前ではガラクタに同じ。
その存在が口にする名前は----------
「飛影.....ねぇ、飛......んっっ....ア....ふンンっっ....」
己を呼ぶ声に心をかき乱される前に、愛らしい唇を塞ぎ打ち付ける律動を早めた。
外に出せない声が口内に溜まり、絡み合う舌を通して蔵馬の火照りが伝わってくる。
「やっっ......飛ぇ....んンンあ.....ん、ふあっ....あぁぁぁぁっぁんっっ」
燃え滾る熱い欲望が体内に放たれた瞬間、蔵馬の身体は大きな悦びに震え、真っ白な世界に意識が引きずり込まれた。