黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【眠れる君に目覚めのkissを】
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茨に囲まれたお城の中で、お姫様は100年間眠り続けました。
そして100年目。
お姫様の目を覚まさせたのは--------
「蔵馬がいなくなっちまった」
幽助から聞かされたのは魔界統一トーナメントが終わって半年後の事......
蔵馬------
その名が懐かしく心を擽る。
最後にこの腕に抱きしめたのはいつだったか。
そうだ。あれは確か魔界に向かう前夜......
貪るように激しく求め合い、夜が明けるまで抱き合った。
いつもは気絶するように眠るのに、あの時はいつまでも俺の名を呼び続けてたな。
「飛影....飛影....もう少しだけ。このまま.......」
分かってたんだろうな。離れ離れになる時間の長さが。
触れる事はおろか、一目見る事すら叶わなくなる事を......
敵対する国同士-----
次に会う約束もないまま、約束も出来ないまま......
「飛影、何があっても俺はずっと.....貴方の事想ってるから......だから......」
何を言っていいか分からなかった。
ただ強く抱きしめた。朝が来るまでずっと。
抱きしめる感触
その香り
柔らかい声
肌で感じる温もり
その全てを身体に刻むように、心に記憶させるように-----
夜が終わりを告げ、朝の光が差し込む頃、ようやく眠りに落ちたお前に贈ったのは約束の口付け。
そして妖気を染み込ませた右腕の包帯の切れ端を、お前の手首にくくりつけた。
---俺の戻る場所はお前がいる場所-----
俺の心は常にお前と共に........
必ずお前のもとに戻ってくる......
あれから1年半。
約束も果たせないまま時間だけが過ぎていく。
トーナメントで見たお前は強く、気高く....だけど儚くて。
纏う柔らかな妖気も凛とした姿も何一つ変わってなかった。
知ってたか?
あの戦いの後、倒れ込むお前を見て思わず駆け出した事を。
だけどこの手が届く前にあいつが.....
胸の奥でどれだけ紅い炎が熱く燃えたぎっていた事か.....
黒龍で会場全てを吹き飛ばしてでも、お前を攫っていきたいと思った。
お前は分かっていたか?
離れていても、逢えなくても俺の心の中にいつもお前がいた事を。
お前の存在は1日たりとも消えた事はなかった。
そう、言葉にしなくても........
1年半ぶりに降り立った窓には相変わらず鍵がかかってなかった。
窓から見える桜の木----
あいつが咲かせた沢山の花達---
綺麗に片付けられた部屋-----
何一つ変わってるモノはなかった。
たった1つ.......
足りないモノはいるべき主の姿だけ。漂うべき優しい妖気も.......
「蔵馬の奴、どこ探してもいねぇんだよ。妖気も感じられねぇし」
幽助の言う通り。
微塵の妖気すら感じない。
邪眼にすらその姿が映し出されず。
-----どこに行った?-----
ゆっくりとベッドに腰掛けた。
最後に抱き合った夜がなぜか鮮明に思い出されて。
真っ白なシーツ、綺麗過ぎる程に整えられた寝床。
まるで、もう戻らないと分かってるように......
整然とする空間にただ一つだけ、違和感を感じた。
真っ白なシーツの上に置かれた枕。
それだけがなぜか色褪せてて。
ジッと見ていた飛影の顔が曇った。
---そうか、これは....-----
あいつの涙の痕か.....
枕を濡らした涙が渇かぬうちに次の涙を流し.....
消せない染みとなったのだろう。
どれだけの涙が流されたのか。
独りでどれ程の哀しみの夜に耐えてたのか。
----蔵馬....どこにいる?------
湧き上がる不安が黒い影を落とし始める。
フと部屋の中に妖気の波が流れ込んできた。飛影を囲むように波打ち、静かに窓の外に引いていく。
まるで"ついてこい"と誘導するように。
(この妖気は!!!しかし、なぜ......)
迷ってる暇はなかった。遠ざかる波長を追い掛けるように、風に靡くマントが窓枠から身を翻した。