黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【Be envious of..........】
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「だから、さっきから誤解だと言ってるだろ!」
「はあ〜?誤解?誤解で同じ人と何度も何度も出かけますか?!」
「だから!それは躯の......」
「また躯!?毎回毎回躯、躯って....貴方の言い訳の中心はい〜っつも躯なんですね!」
「....なっっ!」
「休みがないのも躯のせい!休みの日に用事があって会えないのも躯のせい!挙げ句の果てはこっそり女と出掛けるのも躯のせいですか?!」
閑静なマンションの一室。普段は穏やかな空気が流れるその部屋で、先ほどから漂うのは部屋の主には似つかわしくない不穏な気配。
そして聞こえてくる荒々しい言葉の応酬。
床には直前まで宙を飛び交ってたのであろう様々な物の痕跡が散らばる。
その中心には顔を上気させ、興奮のせいか短い呼吸を繰り返す二人の姿。。。
それは些細な事の積み重ねだった。
飛影の仕事が忙しくて2ヶ月以上も会えてない事だとか、やっと取れた休みの日に煙鬼主催の宴会の所為で会えなかった事だとか、蔵馬が会社で部下のミスの尻拭いさせられた事とか......
一つだけでも参るような事が立て続けに起こったら、さすがの蔵馬も冷静ではいられなくなる。
どうしても飛影に会いたくて、薬草を摘みに行くのを理由に魔界に向かったのは昨日の事。
ついでだ、と自分に言い聞かせて百足に向かったのがそもそもの間違い。
「飛影様は出かけられてますよ。確か今日はお休みのはずですから」
「休み....?出掛けたって、誰と?」
何となく聞いただけ....それなのに。
対応してくれた従者の口から出たのは蔵馬の知らない女の名前.......
「このところ、よくご一緒の姿をお見かけするんですよ」
後の記憶はほとんどなくて、気がついたら部屋に戻ってた。
飛影が事の次第を聞き、真っ青な顔で百足を飛び出しいつもの部屋に降り立ったのは数時間前。
すでに蔵馬は手が付けられない程荒れに荒れ、何を言っても無駄、話など一切聞かない!の一点張り。
飛影の短い堪忍袋の尾で長時間宥めれるはずもなく、話を聞かない蔵馬に苛立ち.......
気付いた時にはもはや収拾のつかない状態に陥っていた。
「とにかく!俺はやましい事は一切してない」
「やましい事はしてない!?じゃあ、貴方とよ〜っっく一緒に出かけるらしい彼女は何なんですか????」
「それは.....」
「ほら!答えられないクセに偉そうに誤解だの、やましい事してないだの言わないで下さい!」
嫌味たっぷりにまくし立てる蔵馬に飛影もついつい熱くなる。
「....っ貴様、人が下手に出てれば!」
「はっ????貴様って....得意の逆ギレですか?!キレれば俺が折れるなんて思ったら大間違いですから!」
「貴様もとことん可愛くない奴だな!」
「可愛くなくて結構!なら可愛い可愛い彼女のとこ行けばどうですか?!」
「はっ!確かに今の貴様よりは百足の女がマシだな!」
お互い感情のままに発した言葉の応酬は越えるべきではない一線を越え......
「...飛影のバカ!もう二度とここには来ないで!俺にも近寄らないで下さい!」
「......なら終わりだな」
今までの激情が嘘みたいに静かに呟くと、飛影は窓枠を蹴り身を翻していった。
ただの一度も振り返る事なく....
遠ざかっていく妖気を感じながら蔵馬もまた、縋る事もなくただ立ち竦むだけ。
飛影の妖気が完全に消えてしまった後も、散乱した部屋を片付けることもなく、窓の外を見つめ続けていた。