黒龍の章〜飛影×蔵馬〜

□【幻影の恋人】
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昼間は騒がしいほど息づいてた生き物達が、寝静まった真夜中。いつもの窓から入り込んだ心地良い夜風がカーテンを揺らし、遠慮がちに顔をのぞかせた月明かりが寄り添う二つのシルエットを照らし出す.........



頬をなぞる夜風が眠りからの覚醒を促す。未だ夢の狭間をユラユラ漂う意識を起こそうとこめかみを強く押さえ、ギュッと目を瞑った。

開いた瞼の奥で燃えるような緋色の瞳が天井を見つめた後、ふと視線をずらす。
腕の中にすっぽりと収まり、顔を寄せ丸くなって眠るのはついさっきまで激しく抱き合った最愛の恋人。

ほんの一瞬、月明かりに反射して透き通るような白い肌が映し出された。


「もう一度食うぞ、バカ狐」


一つため息をつき、ベッドからずり落ちそうなタオルケットを手に取り、露わになった上半身にそっと掛けようとして違和感に気付く。

幽かに震える肩と苦しげな荒い呼吸。

乱れてる妖気。


「おいっ!どうした!?」


慌てて身を起こした飛影の耳に飛び込んで来たのは、聞きたくもない一人の名前........



「...ぇ...黒鵺ぇ.....」



蔵馬の口から漏れたのは飛影の知らぬ時代を、共に過ごし過去に唯一蔵馬が愛した男の名.......

その肉体が滅び、1000年以上の時を経ても尚その存在は消える事なく蔵馬の深奥に宿り続け、時おりその幻影を脳裏に映しだす。



蔵馬の頬を一筋の涙が伝う。。。



その涙が表すのは哀しみか後悔か、自責の念か.....それは飛影の預かり知らぬ事。


胸の奥で煮えたぎる嫉妬の炎を抑え、蔵馬の頬を濡らす涙をそっと拭った。


黒鵺の名前を呼んだのは蔵馬の無意識。

この瞬間の蔵馬の心を占めるのは、1000年前の恋人ではなく今まさに隣にいる飛影だけ.......


目覚めた時に、この出来事すら覚えてないかもしれない。


それを分かっていても、黒い嫉妬の炎は燃え続け飛影を闇に引きずり込もうとする。



「このままお前をこの炎で焼き尽くしてやろうか」



物騒な言葉とは裏腹に、蔵馬に触れる指は優しくその瞳にはやり切れない切なさをたたえて.......


生きてさえいてくれたら、いくらでも勝負してやれる。だが、どう足掻いたところで魂だけの幻想に太刀打ち出来るはずもない。


「くそっ....」


やり場のない苛立ちが募る。



「飛影......どうしたの?」


飛影が纏う妖気の急激な高ぶりを感じ取り、目を覚ました蔵馬がまだ眠たげな目を擦りながら不安そうに見つめる。


目の前に影が落ち、気付いたら飛影に組み敷かれベッドに身体が沈み込んでた。
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