黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【ワン・ウェイ・ラブ】
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---隣にいるのが当たり前だと思ってた。
怪我の手当てをされながら聞かされる口煩い小言も、
何が楽しいのか、俺に向ける笑顔も、
当たり前に思えてた物が本当は大切で、こんなにも手に入れるのが難しい物だったなんてな......
今更気付いても手遅れか。
一番近くにいた存在は、今は手を伸ばしても決して届く事はない。
お前はもう-------
蔵馬は一人森の中を歩いていた。殺伐とした空気の中、頬を撫でる夜風は心地良い。
散歩に行ってくると一言告げ、ホテルを後にした。
一人は危ねぇから付いてく、と食い下がる幽助を何とか宥めて。
「ほんと、心配性なんだから」
呆れたように呟くも満更でもない。
幽助はいつでも過保護じゃないかと思う位、蔵馬の事を心配して気にかけてくれる。それだけ大事にしてくれてるんだろうけど.......
「俺、子供じゃないんだけどな〜」
俺の方が年上なのにとちょっぴり不満気に足元の小石を蹴った。
小石は綺麗な曲線を描き、草むらに吸い込まれていった。
ふと蔵馬が立ち止まる。近くに感じる複数の妖気。
(1.2.3。。。何とかなるか)
ガサガサっと茂みが揺れ、3匹の妖怪が蔵馬の目の前に立ちふさがった。
「旨そうな人間の匂い発見〜」
舌なめずりしながら、3匹は蔵馬に近付いてくる。
蔵馬は心底面倒くさそうに一つ溜め息をつくと、ニッコリ笑った。
「お褒め頂いてどうも。生憎ですが、貴女達を相手してる無駄な時間はないので」
無駄な、という言葉に殊更力を込めたのは、多少の苛立ちのせい。
「なっ!お前っバカにしてるのか!」
語気を荒げる3匹に憐れみ混じりの瞳を向ける。
「バカにはしてませんけど、己の能力を過信して軽率に仕掛けてくるなんでバカだな〜.....っと、これは失礼」
いつになく辛辣な嫌味を並べたてるのは、前の試合で妖狐としての片鱗を見せた己の闘争本能の所為か。
「いっ....言わせておけば〜っっ!」
3匹が一斉に飛びかかる。
勝負はほんの一瞬だった。
蔵馬に触れる隙も与えず、鋭い刃と化した花弁が3匹を切り刻む。
「だから言ったのに・・・・・」
一言も発することなく3匹の妖怪は物言わぬ屍となり、地面に横たわっていた。
フ〜っと一息つくと、蔵馬は近くの木にもたれ掛かり、こめかみを押さえた。
軽いめまいが襲い、そのまま座り込んでしまった。
連戦の疲れは蔵馬の予想を遥かに超えていたようで、そんな中、無駄に妖気を放出してしまった。
急激に睡魔が襲ってくる。
(あ〜あ、馬鹿な事しちゃったな〜)
悔やんでみるも時すでに遅し。睡魔は容赦なく蔵馬を包み込み、瞼をあけてるのがやっと。
目の前にはこと切れた3匹と大量の血溜まり。
(血の匂い嗅ぎつけられちゃまずいな〜・・・・)
場所を移動しなきゃと頭では分かっていても、意識は既に夢の世界の入り口に立っている。
それを呼び戻すのは至難の業で。
(場所・・・移らな・・・・きゃ・・・)
カクンと首が傾く。それが合図となり、スースーと小さな寝息が聞こえ出した。
その顔には先ほどの冷酷さはなく、あどけなさが残る、いつもの優しい表情だった。