黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【Promise night】
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スタっっ。。。
空をオレンジ 色に染めていた太陽がその顔を隠し、夕闇が辺りを包み始めた頃、窓辺に黒い影が降り立つ。黒いマントが闇に溶け込み彼の姿を隠していた。窓枠から部屋に飛び降り部屋を見渡した顔には戸惑いが浮かんでいた。
(どこに行った。。。?)
明かりのついてない部屋に人の気配はなく、淹れたてだったであろうコーヒーは主を待ちわびながら冷たくなっている。
チッと軽く舌打ちをすると額を覆う白い布を取り払った。現れたのは第3の目。
意識を集中させていくとほどなくして探し人が見えた。
木にもたれ掛かり両腕で自分自身を抱きしめるように座っている。何かを思い詰めたような表情で時々フッと空を見上げながら。。。
(妖気が乱れてる)
「あのバカ 。何をやってるんだ」
深々とため息をつき開いた額の目を再び隠すと、窓枠を蹴り暗闇の中へと身を翻していった。
ほどなくして探し人は見つかった。小高い丘の上から空を見つめていた。
月の光に反射した肌はいつも以上に白く輝き、夜の空気を纏った姿はどこか儚く。。。普段ならどんな僅かな妖気にでも気付くのに、ピクリとも反応しない。まるでその空間にたった独りしか存在していないかのように。
「おい、蔵馬。」
低く響く声が静寂を引き裂いた。
「飛影。。。どうしたんですか?」
振り向いた蔵馬は飛影の姿を認めると、はにかむように柔らかく微笑んだ。それはいつもと変わらない笑顔。
しかし飛影は気づいていた。空を見上げながら蔵馬が幽かに震えていた事。名前を呼んだ瞬間怯えたように肩を強ばらせた事。。。
何よりも蔵馬の纏う妖気が何かと必死にせめぎ合っている。
「俺の気配に気づかないとはな。何を考えていた?」
蔵馬は何かを言いたげな表情で飛影を見つめたが、すぐに視線を逸らした。
「星、見てたんですよ」
「あっ?」
「だから、星。こんな場所でも綺麗な星が見えるんだなって」
それだけだよ、とでもいうようにニコリ と笑う。
飛影は一つため息をつくと、おもむろに蔵馬の髪を一房掴み自分に引き寄せた。
「つくならせめてもう少しまともな嘘をつくんだな」
翡翠の瞳と緋色の瞳が至近距離でぶつかる。
射抜くような視線にいたたまれなくなったのか、翡翠の瞳がユラリと揺らめいた。
それを隠そうとするように蔵馬は右手を飛影の髪の毛に伸ばし、フッと口元を綻ばせて微笑んだ。
「嘘じゃないですよ。星に見とれてあなたに気づかなかった事は謝りますから。」
ゴメンね?とばかりに小首を傾げて緋色の瞳を覗き込む。
「ふざけるなよ。。。」
蔵馬の右手を掴むと一気に引き倒した。
「ちょっっっ!飛影っ?!」
景色は90度反転し、気づいた時には飛影に組み敷かれていた。
「俺がそんなとってつけた笑顔に騙されるとでも思ったか?あっ?」
蔵馬の両手首を掴んだ指に徐々に力が加わっていく。
「。。いたっっ。」
僅かに漏れた声。
そんな声はお構いなしに飛影はさらに力を込めて二つの手首を押さえつけた。
「こんな不安定な妖気晒しやがって。何もないだと?バカも休み休み言え。」
ス〜っと緋色の目が細くなる。飛影の機嫌が急降下した合図。