瑠璃色の記憶〜過去拍手収納庫〜
□【2013年10月〜12月】
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2013年12月スペシャルver:
空から深々と降り積もる雪が視界を白く染め上げる。
何もない真っ白な世界をあてもなく歩き続ける足が、雪の中に埋まっていく。
四方を見渡しても広がるのは雪原の景色。
踏みしめた雪の絨毯に点々と残る足跡も、振りかえった時には新たな雪に覆い尽くされ消え去ってしまう。
確かに残した足跡を嘲笑うかのように激しさを増す雪吹雪。
誰からも望まれぬ過去と同じ。
まるでそこに己の存在はないかのように、誰に知られる事もなく消えていくは歩いてきた軌跡。
この世を染める色は飲み込まれそうな黒い暗闇か、いつ終わるとも知れぬ真っ白な景色だけ。
ただ2色のみが広がる、無機質で無感情な世界しか知らなかった。
そんな世界にポツンと咲いた小さな薔薇。
降り続ける雪に埋もれる事なく、吹きすさぶ吹雪に手折られる事なく.....
ただ凛として美しく咲いていた。
それは果てしなく広がる雪原に落とされた、一滴の雫にしか過ぎない小さな小さな薔薇だったけど........
初めて孤独な世界を暖かい色に染めた深紅の薔薇。
雪の上の一点の紅い雫はいつの間にか世界を色付かせ、灰色の雲から落ちてきた眩い光が暗闇を優しく包み込む。
穏かな風に揺れるその薔薇をそっと摘み取った。
フワリと香る甘い香りの中で、小さな薔薇が大輪の花となり満開に咲き始めた------
(夢か........)
今でも時おり夢に出てくる、果ての見えない真っ白な景色。
目を覚ましても、そこにある世界は何もない夢の中の世界と変わらなかった。
そんな世界も今は------
「ん〜......」
聞こえてきた小さな声。
ベッドの上に投げ出した腕に乗せられた重みが、モゾモゾと動く。
「飛影....ぃ.....」
掛けてた毛布が僅かにずれ、室内の空気に晒された白い肩がフルっと小さく震えた。
「風邪ひくぞ」
「飛影ぇ......」
スリッと胸に頬を寄せると、寝ぼけ眼の翡翠はすぐに夢の世界へと逆戻りしていく。
ピトっと寄り添う身体に毛布を掛けなおし、両腕で包み込むように抱き締めた。
フッと嬉しそうに綻んだ唇から、スヤスヤと寝息が聞こえ始める。
そっと摘み取った薔薇は、あの時からずっと傍で優しく揺れながら、甘い香りと微笑で包みこんでくれる。
スッと目を閉じると、真っ白な世界が広がった。
空から舞い落ちる雪は、ヒラヒラと漂う羽根へと変わり、足元に降り積もる。
---飛影----
聞こえてきた声に、フッと笑みを零しゆっくりと歩き始める。
フと立ち止まり振り返った。
確かに存在する己の足跡。
その隣で寄り添うようにもう一つの足跡が浮かび上がってきた。
決して消える事のない足跡が-------
fin.