「「あ」」
ガチャリと扉が開いて。
新しく今期から魔族の、其れも不死族の討伐隊に配属となった二人の男女は互いに顔を見合わせるなり
「シュベルト?!どうしてシュベルトが此処に??」
「ア、アリエトなのかい??君こそ何で―――」
と、声を上げた。
そんな
幼馴染であると同時に一流の剣の使い手として日々切磋琢磨していた好敵手でもある二人の再会。
其れは必然と言う名の運命だったのかもしれない―――
『All's fair in love and war(恋と戦争は手段を選ばず)』
「しかし驚いたな。シュベルトがよりによって不死族の討伐隊に選ばれてたなんて」
「ハハハ…僕も驚いたよ。だってアリエトとこんな所で再会出来るだなんて思っても無かったからさ」
カツカツと二人分の足音が廊下に響く。
此処は主神の居城『ダイナソアタ』の真隣に存在する対魔族を目的とした軍本部『エステラターゼ』である。
ちなみに『エステラターゼ』は居城と連絡通路で繋がっているモノの―――
「しかも…聞いた所によると軍人寮に入ったらしいじゃないか。まぁ、君らしいといえばらしいけどさ」
やや呆れた口調のシュベルトから軍人寮。という言葉が出た様に。
『エステラターゼ』は『ダイナソアタ』とはまた別に独立して創られた特別な建物なのだ。
そして当然其の中には対策本部や会議室は勿論、軍人養成施設や軍人寮が存在していたので。
『次期主神』として此の世に生まれ落ちたシュベルトと、戦のサラブレッドとして生まれたアリエトは共に幼少期を此の軍人養成施設で過ごしたのだ。
そして、今まで身寄りの無いアリエトは父方の祖父母に面倒を見て貰っていたのだが―――
「うん。もう私も子供じゃないし。何時までもお世話になる訳にも行かないから」
「そっか」
彼女はコレを機に家を出たのだ。
其れは
かつて神界の戦士として戦場で活躍し、魔族の討伐に多大なる貢献と功績を残した両親に少しでも近付きたい一心での行動だった。
しかし
「でも気を付けた方が良いよ??」
「アリエトだって一応女の子なんだ」
「軍人寮は男が殆どだし‥今は良くても此の先何があるか分からないだろう??」
「言っちゃ悪いけど僕はあんまりおススメ出来ないな」
彼女の幼馴染であり、既に神界一の戦士と真しやかに囁(ささや)かれていたシュベルトは決して良い顔をしなかった。
と、言うのも。
アリエトと違ってある時期を過ぎた時からサードベンツの後継者として本格的な教育を受ける羽目となったシュベルトは一足先に此の軍人寮へ入っていたのだ。
「酷いな、一応は無いだろう??私だって立派な女の子なんだぞ!!」
「嫌だな、言葉の綾(あや)だって。拗(す)ねないでくれよ」
そして
アリエトの知り得ない軍人寮の裏事情に精通していたシュベルトは、実体験も含め日夜軍人寮で起きている問題に彼女が巻き込まれるのでは無いだろうか??と懸念して
「まぁ止めろ、とまでは流石に言わないけどさ。アリエトって天然で意外とドジだから心配だよ」
と、冗談半分で忠告してやったのだ。
そうすれば
「もう!!シュベルトったら。人が気にしている事をわざわざ口に出して言わなくても良いじゃないかっ///」
軽口を叩くシュベルトに対し、内心恨みがましく思いつつも。
其れでも子供の頃から良く知っている彼が軍人寮に入っていた事を思い出したアリエトは其れだけでとても安心した気持ちになれたので。
「でも‥そうだな。無いとは思うけど―――もし何かあったら真っ先にシュベルトを頼りにするかも。良い、かな??」
久しぶりに再会した幼馴染に懐かしさと愛しさを覚えた彼女は甘える様な口調でそう言ってみたのだ。
すると―――
「ッ///」
彼女自身は気付いて居ないだろうが。
シュベルトは子供の頃からアリエトに特別な感情を抱いていたのだ。
そして其れは日を追う毎に増して行き。
抑える事がもう出来なくなりそうな位想いを募らせてしまったシュベルトは彼女への思慕を断ち切る為にも此の軍人寮に入ったのだ。
次期主神として、婚約者の居る身としてけじめをつける為にも。
其れ、なのに―――
「…‥なんて言われても迷惑、だよね??」
「そ、そんな事はッ///」
「うぅん。嘘、今のは忘れていいから」
大きな上目遣い越しの瞳と昔よりも遥かに大人びて綺麗になったアリエトの横顔に思わずドキッとさせられたシュベルトは一瞬言葉を詰まらせ―――
「アリエト‥‥///」
まるで釘付けになった様に彼女から目を逸らせなくなってしまったのだ。
戦女神などという血生臭い呼称に似つかわしい、其の類稀な美しさのせいで。
そうして
「‥ルト、シュベルトったら!!」
「ッ///」
急に大きな声で名前を呼ばれた気がしたので。
ハッと我に返ったシュベルトが
「あ、呼んだかい??アリエト」
などと答えれば。
「呼んだかい??じゃなくて。人の話、全然聴いて無かっただろう??」
鈍いアリエトから見ても先程からシュベルトが上の空状態で、何処か可笑しい事に気付いたので。
やれやれ。なんて思った彼女は
「まぁいいか。ところでシュベルト。久しぶりに私の部屋に来てお茶でもしないか??お互い積もる話もあろうだろうし」
フフッと無邪気な笑みを零してそう提案してやったのだ。
そんな、警戒心の全く無いアリエトに子供の頃から恋慕していたシュベルトは―――
「…‥そう、だね」
まるで『男』として扱われていない事に内心傷付きながらも
「ならお言葉に甘えて君の部屋に行かせて貰おうかな」
「うん!!そうこなくっちゃな♪」
汚れも他人を疑う事も知らない無垢な女神に対していつも向けていた、封印したはずの強く激しい情愛を思い出して
「…‥‥ついでに。僕が男の本当の恐ろしさって奴を教えてやるよ―――」
彼女に聞こえるか聞こえないかくらいのとても小さな声でそんな物騒な事を呟いてみせるのだった。
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