『凌輝視点』



例えば、白馬に乗った王子様とか

例えば、立派な剣を腰に携えドラゴンを一撃で倒しちゃう王子様とか



子供の頃なら誰だって

そんな、御伽噺(おとぎばなし)に出てくるような王子様に一度は憧れるだろう??



もしかしたら、大人になったら自分の事を迎えに来てくれるんじゃないかって、一度は夢見るだろう??




でも現実は至ってシビアだ。

どーせどんなに憧れたって所詮王子様なんか此の世にいやしない。



だから俺は姿見の前でハァ。と盛大な溜息を吐いて今日と言う日がとうとうやって来ちまったんだなぁ。と恨めしくも悲しくも思って




「嫌だなぁ‥‥」

なんて呟き、部屋を渋々出るのだった―――






『貴方は運命の赤い糸を信じますか?』






てくてくてく、と長い廊下をゆっくり歩く。


ちなみに俺の前を歩く執事の名は『八ヶ岳』さんというらしく。



「初めまして、凌輝様。今日はわざわざ当館にお越し頂き誠にありがとうございます」

恭しい態度で深々頭を下げる彼は、俺が見てきた執事の中でも特に上品で礼儀正しかった。





「あの、八ヶ岳さん‥」
「はい??如何なさいましたか??凌輝様」


だから俺も人の良さそうな此の執事にすっかり心を許し、常々抱いていた不安をうっかり打ち明けてしまったのだ。




「俺、あ‥いや、わたし。多摩川さんに逢うの今日が初めてなんだけど―――」


なんて。


でも、八ヶ岳さんは相変わらずニコニコしながら



「あぁ、そうでしたか。でも多摩川君はとても良い方ですよ。真面目でしっかり者で、ちょっと無口ですけど頼りになる青年ですから」


きっと似合いの二人になりますよ。

って、言ったんだ。



でも、急に婚約が決まったせいで写真さえも見た事が無くて。

しかも何と今日が二人の初対面だなんて緊張以外の何者でもなかったから。



「そうかなぁ///」



不安で不安でしょうがなかった俺は、せめて男勝りで口も態度も乱暴な自分が粗相しない様に極力大人しく振舞えますように。


なんて祈る様な気持ちで、見合いに挑むのだった。




まさか二人が、運命の赤い糸で結ばれていたなんて知らずに―――












「じゃあ後は若い二人で宜しくやって貰いましょ♪」
「そうだな、遥!!」
「え、あ‥ちょっ///」


此処は見合いの席。


だけど両家の雑談も終わり、同伴してくれた親父とお袋がそんな事を言い出したから向こうの父親も笑いながら



「そうだね、遥。じゃあカイと凌輝様を二人きりにさせてあげようか」

なんて承諾しやがったので。



幾ら何でもまだ二人きりは早いだろ!!

と、心の中で突っ込んだ俺は冷や汗混じりに両親へSOSの視線を送ってみせた。





だが―――



「頑張ってね、リョーキちゃんっ(バチンとウインク)」
「達者でな。俺達は先に帰って食事でも行ってるから多摩川君と仲良くやるんだぞー(ニヤニヤと妻の腰に手を回す)」
「なら私も一緒に‥‥」
「は??ふざけんな。お前が幾ら遥とガキの頃からの馴染みだからって夫婦水入らずの外食に歓迎する訳無いだろう??(大人気なく多摩川父にガン飛ばす)」
「もー、大輝さんったらぁ///ヤキモチ焼きさんなんだからぁ♪」
「だって俺の遥だからね」
「…‥‥遥、やはり私より其の男がいいのか??私の事を昔好きだと言ってくれたのは嘘だったのかい??」
「やぁねぇ。そんな子供の頃の話ししないでよ〜。私の王子様は貴方じゃなくて大輝さんなんだからぁ///」
「はるかぁぁあああ!!愛してるぞぉおおおっ!!凌輝がお嫁に行ったら淋しいし二人目を作ろう!!今直ぐ!!此処でッ」
「きゃんっ///ダメよ大輝さん、みんなが見てるわッvV」
「くっ///前屋大輝、許すまじ…‥」





こっ…

こんの万年バカップル夫婦がぁぁあああぁああっ///


何人前でいちゃこらしてやがる!!

ちったぁTPOってモノをだなぁ!!



いや、違った。


何で人が助け求めてんのにガンバレとか要らねープレッシャー掛けてんだ畜生がっ!!

つーか二人きりとか余計な計らいするんじゃねぇよ!!



と、心の中で大絶叫をかましてみせた俺はチラリと正面に座る、婚約者候補の男に視線を移してやった。


すると



「‥先方もあぁ言ってることだし。折角だから散歩にでも行こうか」
「ッ///」


先程までだんまりだった癖に。


初めて聞く其の低い、澄んだ声にドキッとさせられる。



そして俺の隣まで歩いて来ては



「あ///」


優しく手を取り、誘導してくれたから。



まぁ、ちょっとはお姫様気分になれそうかも///

なんて嬉しく思った俺は、誘われるまま屋敷の中庭に連れて行かされるのだった―――














「へー、キレー!!」
「だろう??」



そんなこんなで俺は何故か見合い相手の『多摩川カイ』と一緒に、彼の屋敷の中庭に訪れて居た。




「わぁ、庭にはこんなおっきい池もあるんだぁ///いいなぁ」
「…‥‥別に羨む程でも無いだろう」
「だってうち、湖しか無いんだもん。あ、鯉だ!!可愛いっ♪」




眼前に広がるのは立派な日本庭園。

其れも国宝級の。



そして、名のある職人が手がけた大池を前に俺はテンションが自然と高くなり



「ねぇねぇ、餌あげてもいい??」
「あぁ、構わない」


我を忘れて子供の様にはしゃいでしまったんだ。




「えい!!」
「…‥‥」
「あ、早速食べてるッ!!ふふ、可愛いっ///」

ぱしゃんと水飛沫を上げて水面を飛ぶ錦鯉の姿はとても綺麗で。



たまたま、俺と同じ髪色の黄金の錦鯉が飛び跳ね、其の姿を俺達の前に現した瞬間だった。





「綺麗、だな」
「え‥‥??あ///」


サラリと

俺の後ろ髪を多摩川さんが撫でて来て。



項(うなじ)に掛かった髪が掻(か)き上げられた事により、普段隠されている其処にそよいだ風の感触を直に受けてしまいくすぐったさが走る。



でも其れだけじゃなくって




「ひゃんっ///」


ペロリと項を舐められてゾクッと悪寒に似た何とも言えない感覚が身体の中を駆け抜けた。




「な、何するのっ?!」
「…‥‥」


こんな事されたのは初めてで。

まさか舐められるとは思ってなかった俺は、ついいつもの調子でキッと多摩川さんを睨み付けてしまった。



だけど直ぐに我に返り、ハッとした俺は



「あ、ご‥ごめんなさい///別に怒ってる訳じゃなくって‥…」

怪訝な表情で見詰め返す多摩川さんの視線が落ち着かなくて。



しかも早速ボロ出しちゃった。と焦りながらも慌てて弁解してみせたのだ。






でも、次の瞬間―――




「気に入ったぞ、凌輝」
「へ??」
「……決めた。俺はお前を妻にする。だから婚約と言わずに今直ぐ結婚しよう」
「なななななっ///」


驚くべき事に、何を気に入ったかは知らないが多摩川さんは俺がお気に召したらしく、突如結婚しようなんて言い出したんだ。



だけどさぁ。



「ちょ、ちょっと待ってよ!!どうしてそうなるの??俺達、いや‥私達まだ出逢って間も無いんだよ??そんなの早すぎるよ……」



幾ら何でも急すぎるだろ。


だって俺まだ学生だし。

其れに結婚なんて考えた事も無いし。


当然、心の準備すら出来ていなかったからすっかり其の気になって熱烈な視線を送ってくる此の男を何とか宥(なだ)めようとしたんだけど―――





「恋愛に時間など関係無い」
「あっ///ちょっと!?何するの??下ろして!!下ろしてよぅっ///」


ひょいっと片手で持ち上げられた俺はそのままお姫様抱っこされてしまった。





どうしよう、このままじゃ着物‥皺(しわ)くちゃになっちゃう!!

お気に入りの、凄く貴重で高価な奴だったのに。



なんて危惧していると―――



「俺の部屋に行こう」
「ッ?!な、何で??」
「‥お前を、俺の女にする為だ」
「―――ッ///」


ギラギラと、まるで獲物を前にした獰猛な肉食獣の様な目付きで眺められ、体が勝手に萎縮した。



このままじゃ俺‥食べられちゃうっ?!


なんて、鈍い俺にしては珍しく危険を察知する事が出来たので。





「やだ!!下ろしてってばぁ!!ねぇ多摩川さんったら!!聞いてる??」


じたばたと彼の腕の中で必死にもがいて暴れてやったんだ。


だけど力の差が有り過ぎるのか、俺の抵抗なんてモノともせずに無事部屋へと俺を連れ込む事に成功した多摩川さんは




「あぁ。下ろしてやるさ」
「ホント??良かっ‥‥」
「ただし。布団の上にな」
「きゃんっ///」


何故か二つ並べられた布団の上に俺をドスン、と乱暴に落としたのだ。



瞬間、お尻に鈍い痛みが走る。




「いっ‥た///」

そして俺が痛みに気を取られている隙に




「…‥さぁ、凌輝。覚悟しろ。今日からお前は‥俺のモノだ」
「い‥いやぁあぁあああっ///」


無理矢理押し倒し、強引に身体を繋げようと試みるのだった―――




※後半へ続く

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