守りたい 第二部
□第52話
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ぽつぽつとアカル草が道を照らす中、奥へ奥へと洞窟を進む。
響くのは足音と、案内をする御手洗の声だけだ。
幻海らと別れた後は、不思議なことに奥へ行くごとに明るさが増していく。光を放つ小さな虫が飛んでいる為のようだ。
「発光虫だ。魔界のホタルのようなもので、害は無い。もっとも、生命力は比べるべくもないがな」
蔵馬が教えてくれる。
言われるまで気づかなかった。
……こんなことではダメだ。
ふと、生暖かい風が流れる。
泥臭い匂いがした。魔界の障気だと、やはり蔵馬が言う。
もう最深部は近い。
「約50m先で大きく左に曲がる。そこが穴の中心部だ」
優梨はゴクリと、唾を飲み込んだ。
「ようこそ」
その大きな空洞は、煌々としていて視界は明瞭だった。先程見かけた発光虫がそこかしこに浮遊しているからだろう。
何の為に持ち込んだのやらと思わせるテレビとビデオデッキ、そしてソファー。
悠々と腰掛ける仙水。
傍らに佇む樹。
湖に揺れる舟の上には両手両足を縛られ、さるぐつわを噛まされた桑原と、それを見張るような巻原。
そして更にその頭上には、黒々とした空間の内側に数えきれない妖怪たちが群がっている。
トンネルの開通を、今か今かと待ちわびているのだ。
「映画がいいところだったんだが……ちょうどあと30分」
あと30分で、奴らが人間界に進出してくる。
「……忍ちゃん」
「来てくれると思っていたよ、優梨」
「私は、会いに来たんじゃない。止めに来たんだよ」
優梨は一言一言、噛みしめるように声を出す。言い聞かせでもしないと、せっかくの決心が揺らいでしまいそうだったから。
「オレと……戦うのかい?」
「そうしなきゃやめてくれないなら……戦う、よ?」
言い聞かせる。言い聞かせる。
大丈夫。私はひとりじゃない。
優梨はまっすぐ仙水を見る。
「カズくんを離して」
「そう、だな……巻原を倒せたら返そう」
「……え?」
やけにあっさりしている。
裏があるのか……あまり考えたくはない。
動悸を抑えながら前へ出ようとする優梨を、蔵馬が制した。
《……信用するな》
また、ズキリと胸が痛む。
今の仙水は"敵"だと、わかっているのに。
蔵馬が冷静さを取り戻しているのは心強いが、同時にそれが的確な判断であることが悲しくもある。
「御手洗さー、頭ん中桑原助けることで一杯じゃん。それから蔵馬って人? 天沼殺したのそんなに悔しい? 顔と裏腹にハラワタ煮えくり返ってるでしょ?」
室田のタッピングを"食った"というその男は、ズバズバと心の声を言い当てる。ここにもう一人、犠牲者がいたのだ。
「……秀、ちゃん……?」
自分たちに気づかれないように怒りを燃やしていた優しい人。
実に読み取りにくい。
その後ろ姿は、何を考えているのだろう?
「手を出すな。コイツは……オレがやる」
違う。いや、ダメだ。
頭の中で警鐘が鳴る。
この人に、これ以上人を殺させる訳にはいかない。
優梨は知らず内に蔵馬の制服の裾を引いていた。
「……私が、やる」
「優梨……」
「みんなにばっかり頼っていられない。だから……」
「キミはそこにいろ」
「秀ちゃん!」
「いいから!」
振り返った蔵馬は、驚くほど無表情だった。
「キミは、そこで見ていてくれればいい」
甘やかされているのがわかる。
けれど、威圧感。
わかるのに……
優梨は何も言えなかった。