守りたい 第一部
□第21話
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首縊島までは専用の船が出る。
指定された船着場に人間はいない。それが大会の方針をそのまま表しているようにも見えた。
「くくく……この日が来るのを待ち望んでいたぜ」
「勝てば望むものは自由と聞いている」
「優勝したら人間千匹くらい頂こうぜ」
そんな声がそこかしこから聞こえてくる中、エリカはチームメイトの姿を探していた。
(ちょっと、誰もいないってどういう事〜?)
あまり一人でうろついて気分の良い場所ではない。早いところ誰かと合流したかったが、人が多すぎて困難を極めていた。
(それにしても、なんか気になるなぁ)
エリカはどちらかといえば小柄で目立つ方ではない筈だが、それにしてはやたら視線を感じる。
その疑問はすぐに解消されることになるのだった。
「へっへっへ、どうしたんだいお嬢さん。人間の女の子がこんな所にいたら危ないよ」
周囲の目を引きつけていたのは霊気だ。妖怪の群れの中に人間がいれば、それはライオンの群れの中のシマウマと同じ。エサとして格好の的なのだ。
(厄介なのに絡まれたな)
無視して行ってしまえば良かったのだろうが、一度足を止めてしまってはそれも不自然。
どうあしらおうかと考えていると、突如腕を引かれてよろめく。
「ガキ一人で来ちまったのが運の尽きだな。あの世で後悔しな」
唾液を滴らせシュルリと長い舌が近づいてきたところに、乱暴にクナイを突き立てた。
「ギャァーーー!!」
「こ、このアマ! 人間の分際でなめたマネしやがって!」
「ぶっ潰してやる!!」
あれよあれよという間に妖怪達に囲まれ、まさに四面楚歌。
しかし雑魚なら問題は無い。
むしろいい練習台だ。習得したばかりの技にはまだまだ不安が残る。チャンスがあれば試していこうと思っていたところだ。
ヴン、と右手が光を帯びて放射状に広がる。するとみるみるうちに妖怪達はぐったりと首を垂らし、次々に膝を崩していくのだった。
「ぐえぇ、なんだぁ?」
「力が抜けるぅ……」
その眩しい輝きが収束する頃には、もうエリカにちょっかいを出そうと思う者はいなかった。
「よし、まずまず」
とりあえず自分的には合格点。
少々脅かし過ぎたのか妖怪達もすっかり遠巻きになり、歩きやすくなったと大満足。
そのままキョロキョロ見渡しながら、再び仲間の捜索を開始した。
「あ、やっと一人目。ぴぃちゃん発見!」
飛影を見つけた。
が、返事の代わりにギロリと睨まれる。"ぴぃちゃん"が気に入らなかったのだろう。相変わらずだが、それはそれで何より。
「ね、他のみんなは?」
「オレが知るか」
予想通りの返答だ。
ええ、そうでしょうとも。
だって一人で山篭もりしてたんだもんね。
「じゃあ探そうよ」
「そのうち来るだろ」
そりゃそうだけど……もうちょっとチームワーク持ってよ。
そう思いながらも口にはしない。飛影に言っても無駄だろう。
それならばと話題を変えてみることにした。
「どんな修業してたの?」
「話す必要はない」
「ずっと一人だったの?」
「どうでもいいだろう」
「ちゃんとご飯食べてた?」
「いらん世話だ」
「お風呂は? 歯磨きは? 着替えは?」
「……うるさい」
「不潔にしてると雪菜ちゃんに嫌われるよ」
「黙れ」
飛影の口調がイラついてきた。雪菜の名前を出したのは失敗だったかもしれない。
しかしどうせ元々会話らしい会話になっていなかったのだ。まぁいっか、と深く気にせずにおくことにした。