守りたい 第一部
□第13話
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「やっと到着しましたね」
「大丈夫ですかエリカ? 飛影、手を貸してくれ」
「チッ、どこまでも世話の焼ける……」
霊界が用意した、妖魔街に通じる特殊な通路。来た時と同じ路を使って、蔵馬・飛影・エリカは人間界に戻ってきた。
力を使い果たして瀕死状態だった幽助と、その幽助にありったけの霊力を注いだ為に昏睡した桑原を連れて。
「キミも幽助に霊力を送った後だ。無理はしない方がいい」
「私なら平気です。それより今は二人を安静に出来る場所へ。ここからなら確か、幽助の家より桑原の家の方が近い筈です」
以前、幻海に頼まれて静流に届け物をした事がある。内容は京都土産のお茶菓子だったか。
桑原家を訪れたのはあれ一度きりだが、場所は大体なら覚えている。
(まぁ、なんとかなるでしょ)
「なら桑原くんの家へ運びましょうか。あ、でもご家族には何と……」
「話の早い方ですから心配はいりません。それと飛影、邪眼で確認してもらいたい事が」
「案内人の女と雪村螢子は無事だ」
(おぉ、気が利くじゃん)
なんだかんだ言ってもやる事はやってくれる。そんな彼が妙に可愛らしく思えた。
「そうだ、優梨は!?」
「そんな女は知らん。この辺りの魔回虫に取りつかれた連中はその学校に集められたようだが、案内人と雪村螢子以外に襲われたらしい女は見当たらん」
「虫笛は破壊されました。これ以上被害は拡大しないでしょうし、他にそれらしい騒ぎの場所が無いのなら無事でいるのではないですか? あなたの結界もある事ですし」
「そう……か。なら良いんだが……」
蔵馬はひとまず安堵してくれた。
「ここ、ですね」
表札に『桑原』の文字。
ちゃんと覚えてた。でかした私。
不良と名高い二人をボロボロの状態で担いでここまで来るのは、かなり人目を引いた。
絶対、いらぬ誤解を受けた。
しかし無事たどり着けたのでこの際良しとしておき、表札の横に指を伸ばす。
「はーい」
呼び鈴を鳴らせば、中からはタバコを吹かした長身の女性が出てくる。
桑原の姉・静流だ。
桑原の腕を肩に担いだまま、蔵馬は軽くお辞儀をした。
「突然押しかけてすみません。オレは桑原くんの友人で南野と言います。実はちょっとワケがありまして、桑原くんが……」
説明するより先に静流は桑原にずかずかと歩み寄り、
(いきなり殴り飛ばした!)
そのまま胸倉を掴み、がくがくと揺らす。
「くぉらぁ、カズ! あんた何やってんだい。制服こんなにして、一体どこでケンカしてきた!」
(弟の身より先に制服の心配か……さすがだなぁ静流さん)
エリカが感心する一方で、これにはさすがに蔵馬も呆気に取られている。
飛影はただ物珍しそうに見ていた。
「ぐえぇっ! ちょっ、ねぇちゃん、ロープ、ロープ!」
(あ、さすがに起きた)
「うるさい、ロープ無しッ! 他人様に迷惑かけてんじゃないよ、馬鹿カズッ!」
桑原はその後しばらく、静流にシバかれ続けた。
――†††――
「あぁーー……ヒデー目に合った。普通ケガ人にやるかよ、ああいうこと!」
「何と言うか……スゴいお姉さんだね」
ようやく解放された桑原は幽助を部屋まで運び込み、蔵馬と共にひと息つく。
「ハッキリ言っていいぜ? 恐ぇだろ、鬼だよ鬼」
「姉弟喧嘩は仲が良い証拠だよ。あれ、飛影。もう行くのか?」
「霊界から言われた事は果たした。もう用は無いだろう」
きょうだい、という単語をあまり聞きたくない飛影は窓を開けて出て行った。
「玄関使えよ!」
「飛影にとってはあれが玄関なんだよ。ウチに来る時もいつも窓からですし」
「忍者かアイツは」
そこへタイミングを図ったかのようにノック音。
「入るよ野郎共。エリカちゃん、お風呂上がったからさ。あんたらも入っちゃいな」
「おぉ、サンキュー姉ちゃん!」
「すみません、お世話になります」
エリカの言う通り、静流は突っ込んだ事情は聞いてこなかった。桑原をボコボコにして気が済んだ後は、その場にいた全員を家に招き入れてくれた。
弟同様の不良っぽい外見とは裏腹に、空気の読める面倒見の良い人だ。
部屋の入り口でバスタオルを用意して立っている静流の背後から、エリカが顔を出す。
「私は、学校の様子を見に行って来ます」
「だぁっ、そうだ! 雪村とぼたん!」
「たしかに飛影は無事だと言っていたが、詳しい状況は聞いていないね。それに二人も幽助の安否を気にしているでしょうし」
考えてみれば、そもそも飛影の"無事"の基準がわからない。血だらけでも、生きてさえいれば"無事"だと……言うかもしれない、飛影なら。