守りたい 第一部
□第13話
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散々からかわれた幽助は、螢子と共に帰っていった。事情を知らない彼女への言い訳は、まぁ自分で頑張れとその背中を応援する。
「さて、私たちも帰ろっか。静流さん、カズくん、おじゃましました」
「「カズくん!?」」
蔵馬と桑原の声が重なる。
「静流さんの弟くんなら、もう友達かなって。嫌だった?」
「いやぁとんでもない! 全然良いッスよ」
「あんたがそんなガラか。優梨ちゃん、どうせなら"バカズくん"って呼んでやんなよ」
「ねぇちゃん、そりゃどーいうイミだよ!?」
「『バカ+カズ=バカズ』だよ。説明しなきゃわかんないのかい、バカズ」
「わかってるから怒ってんだよ!」
飽きない姉弟だ。
あんな闘いの後なのに『楽しい』と素直に思えた。
「"カズくん"ね……」
帰り道、蔵馬が呟いた。
「ずいぶんマトモだよね、"南ちゃん"に比べて」
「まだ根に持ってたの? しつこい男はモテないよ、秀ちゃん。そっちこそ、"蔵馬"って呼ばれるの嫌なんじゃなかったの?」
「出会った経緯が経緯だからね。螢子ちゃんは、みんなに倣って言ってるだけだろうし」
幽助も桑原も、出逢ったのは"妖怪・蔵馬"。ただの"秀一"のままなら、おそらく出逢っていなかった。
「霊界と関わってしまったからには、"蔵馬"としての活動機会も増えるだろうしね。こうなった以上、仲間内でくらいは仕方ないかなと思ってるよ」
「じゃあ私も……」
「キミはダメ」
有無を言わさずの即答。
「なんで〜〜? それって仲間はずれじゃない? いじめ反対」
「使用範囲を最小限に留めたい事には違いないからね。どこで誰が聞いているか分からないし」
蔵馬の名を口にすれば、それだけでよからぬ輩に狙われかねない。特に優梨には霊力がある。
「だから今まで通りの方がキミの為だ」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだよ」
半分はウソだ。
そんな蔵馬の秘めたる想いを、優梨は知らない。
他のみんなが『蔵馬』と呼ぶなら、彼女には『秀一』の名で呼んでほしかった。
優梨が出会ったのは"秀一"だから。それもある。しかしそれ以上に"トクベツ"感があったから。
仮にも元・伝説の妖狐がそんな事、口が裂けても言えないが。
何故こんな風に思うようになったのか。最近の自分は、どうもらしくない。
千年を越える時を生きて尚、こんなくすぐったい思いを抱くようになろうとは。
(だが、悪くはない)
冬の夕日を横目で見やり、そのまま視線を優梨に移す。並んで歩く二人の影は、長く、長く伸びていた。