守りたい 第一部


□第13話
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「おじゃましま〜す」

「よっ、優梨ちゃん久しぶり」

「ご無沙汰してます、静流さん。あ、またタバコなんか吸って」

「もうクセなんだよ。今更やめられる気がしなくてね」

ふうっと煙をはく姿は、妙にサマになっているから不思議だ。少なくとも、幽助のやるそれとはだいぶ違う。
普通に考えて当然良くない事だし匂いも苦手だが、カッコイイし、なにより本人がここまで堂々としていると止める気にもならなかった。

部屋へ案内されるとそこには既に螢子、ぼたん、そして蔵馬も来ていた。

「優梨、どうしてここに?」

「ぼたんちゃんに聞いたんだよ。なんか派手に暴れて桑原くんちにお世話になってるって」

そういう事にしといて、とぼたんに目で合図を送る。

「や〜〜それにしても、よく寝てるねぇ」

「だろ? 呑気なモンだぜ。こっちは体ギッシギシな中、オフクロさんへの言い訳考えてやったってのによ」

「言い訳って……叔母さまには何て?」

「ヤクザまがいの連中と大喧嘩したら学校に乗り込んできて、逆恨みで雪村に襲いかかった……って」

どんな言い訳だ。

「いいの? 螢子ちゃん、なんかダシに使われちゃってるけど」

「でも、麻薬組織の調査中に催眠術を使う殺し屋に抹殺されかけた、なんてとても温子さんに言えないし……」

こっちはこっちでどんな言い訳だ。どんどんややこしい事になってる気がする。
するとぼたんが話題を逸らそうと、大きな声を上げた。

「ま、まぁいいじゃないかい、みんな無事だったんだしさ。結果オーライってヤツさね。ね、蔵馬?」

「後はみんな、ゆっくり養生することですね。幽助も、疲労は残るでしょうが傷の治りは順調ですし」

「分かるんですか? クラマさんって凄いんですね。こんな優秀な人と一緒に探偵のお手伝いなんて……幽助、足手まといになったりしてませんか?」

「そんな事は無いよ。むしろオレの方こそ、幽助には助けられてばかりさ」

螢子は感嘆し、蔵馬が謙虚に応じる。しかし、何気ないその会話に睨みを利かせる者が一人。

「優梨? どうかした?」

「……別に」

それは本当に些細な事だが。
みんな『蔵馬』と呼んでいる。自分にはダメだと言ったのに。

(なんかズルい)

そんな事を思う自分は、心が狭いのだろうか。
なんだかストレス解消がしたくなった。飛影の事もあり、なにやら不満爆発だ。
突如、優梨はポン、と手を鳴らし思いついたように鞄をガサガサと漁る。取り出したのはペンケース。

「何する気?」

「こういう時は落書きが基本でしょ?」

きゅぽん、とマジックのキャップを取る。油性だ。

「おっ、優梨さん話が分かるな。やっぱデコだろ、デコに"肉"だよな」

「じゃあ私、そのサイドにお花畑描く」

「面白そうじゃないかい。あたし、ほっぺたになると描こ〜っと!」

桑原もぼたんも乗り気だ。
そんな三人を蔵馬は良いのかなぁ、と眺めている。

「あの……螢子、ちゃん? 止めなくて良いの?」

おそるおそる尋ねる蔵馬は、螢子の目がつり上がったのに気づく。さすがに怒ったかと思いきや、

「優梨さん、ぼたんさん、桑原くん。私もやるわ!」

ペンを取ると布団をめくり、右腕に『ばか』、左腕に『あほ』と書いた。

「死ぬ思いだったんだもの。これくらいしてやらなきゃ!」

たくましい。実にたくましい。さすが幽助の幼なじみだ、と蔵馬は呆れるよりむしろ感心した。


――†††――


「あぁ〜〜〜〜なんじゃこりゃ!!」

そして二日後。目を覚ました幽助は自身の顔に驚愕する。

「てめぇら、なんつーことを! うわ落ちねぇ!」

「良いオトコじゃないか〜。ぷっくくく……」

「ぎゃははは! 浦飯、お前それでとりあえず商店街一周してこいよ」

「良いねソレ、罰ゲームみたいで面白そう。コレでちょっとは評判も良くなるよ、幽助」

「ふざけんな! 蔵馬、なんで止めなかったんだよ!」

「いやゴメン。なんかそんな雰囲気じゃなくて……でもみんな楽しそうでしたよ」

「オレは楽しくねぇ!」

地団駄を踏む幽助だが、ぼたんと桑原の笑い声は止むことがない。

「だいたい優梨、なんでお前まで来てんだよ! 関係ねぇだろ!?」

「人がせっかく心配して来てあげたのに、その態度はなんだ!」

「頼んでねぇよ!」

ケンカするほどなんとやら。そんな二人の様子をじとっと見ている螢子と、わずかに表情の強張る蔵馬。

(こりゃそのうちひと波乱あるかもね。修羅場にならなきゃいいけど)

勘の良い静流だけがその空気の変化に気づいていた。
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