守りたい 第一部
□第13話
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「なんで分かったの?」
とりあえず近くの神社まで飛影を引きずって来て、優梨は問う。
エリカの正体を知っているのは今のところコエンマと幻海、そしてぼたんの三名だ。関係上、この中の誰かから聞いたとは考えにくい。
「そんな事はどうでもいい」
「私には良くないの」
「ならば力づくで聞き出してみるといい」
「なにソレぇ! あぁ〜〜もう、コレだからバトル馬鹿は!!」
気の済むまで付き合わなければ質問に答えてくれそうにない。仕方なしに優梨は身構える。
飛影は真正面から踏み込んできた。閃光が顔の間際を下から上へ走る。
後方へ跳ぶも、すぐに距離は詰まる。速い。青龍を一瞬で切り刻んだ実力はダテではない。
真剣と素手、闘気むき出しの者と闘いを避けたい者。攻撃は一方的で、攻守の逆転がないまま数分間が過ぎる。
いい加減、飛影も苛立ってきたようだ。
「貴様、やる気があるのか!?」
「無いよ始めっから! だいたいなんでこんな事しなきゃいけないの、ばかばかしい!」
「後日にしろと言ったのは貴様だろう」
「言ったけど! 昨日の今日で来るなんて思わないし!」
「口より手を動かせ!」
刃が近づき、猛攻に耐えきれずとっさにクナイを取り出す。 キィン、と音を立ててそれを受け止めた。
「ようやくその気になったか。さっさと掛かってこい」
「こんの、わからずや〜〜!!」
もう、こうなったらヤケだ。
低い態勢で一気に懐に飛び込み、くるりと体を反転させてそのまま背後を取る。ぴたり、飛影の首筋にクナイが止まった。
「はい、私の勝ち。もういいでしょ? 質問に答えて」
「…………」
飛影は何も言わない。
キン、と刀を鞘に収めながら立ち尽くす。いじけモード再び、だ。
油断だ。ただ油断しただけだ。エリカとあまりに雰囲気が違ったからやりにくかっただけだ。
そう自分に言い聞かせる飛影。
しかし魔界育ちとしてはそれが何より命取りと知っているので、納得には及ばない。自分に腹が立った。が、自分から言い出した手前だんまりは出来ない。
そんな感情が、苦々しい顔つきにありありと表れていた。
「見ていたから知っている。ただそれだけだ」
「見てた?」
そんなバカな。優梨とエリカで姿を入れ替える時は細心の注意を払っている。
可能な限り自宅まで戻っているし、外で替わる時は周囲の気配を探る。昨日飛影と別れた後、ぼたんを迎えに行くときに替わった際もそれらしい気配などなかった。
「四qほど離れていたがな」
「四q? そんな所からどうやって……あぁ〜! あんた、さては邪眼! 信っじらんない、覗き魔! ストーカー! 最ッ低!!」
千里眼ではどんなに気をつけても気づかない筈だ。
「手合わせの日時も決めなかったから追っただけだ。……この借りはいずれ必ず返す」
こんな事にばかり何を律儀な。
「いや、いい、いらない。それより私の事、誰にも言わないでよ!?」
「……くだらん」
好き放題やって、飛影はどこかへ消えていった。
最悪だ。こんなに早く知られてしまうとは。
飛影の性格上、むやみやたらと言いふらす事は無いだろう。だがそれでも、
「あぁ〜〜もう、サイアク!」
優梨はただただ、うなだれた。しかし世の事は待ってくれないものだ。
とにもかくにも気持ちを切り替えよう。
モヤモヤを振り払うように優梨は桑原宅へ足を向けるのだった。