守りたい 第一部
□第13話
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優梨が家に着くと電話が鳴った。蔵馬からの、無事を確認する連絡だった。
『もしもし優梨? 突然なんだけど、その……怪我とかしてないか?』
受話器の奥でネコの鳴き声がしたので、桑原の自宅からだろう。疲労も残っているであろうに、まだ帰っていなかったのか。
「怪我? なんともないけど、何で?」
我ながら白々しいと思う。
心の中でそっと詫びた。
『そう、ならいいんだ。今日ちょっと妖怪絡みの騒ぎがあってね。気になったものだから』
「心配性だなぁ秀ちゃんは。私、大丈夫だよ。そのテの事なら、ある程度自分でなんとか出来るから」
『ダメだ、自分で何かしようとかは考えるな! 無茶な事はするなと言っただろう』
安心させるつもりが裏目に出た。
怒ってる。
『あ……すまない。とにかく危険に首を突っ込むような事はしないでくれ。何かあったらすぐに逃げるんだ。いいね?』
「?? う、うん。分かったよ。わざわざありがとね。じゃあ……」
――†††――
「……本当は、傍で守れれば一番良いんだけどね」
電話を切った後、蔵馬は誰に言うでもなくそう呟いた。
「おーい蔵馬、優梨さん大丈夫だったか?」
「ええ、取り越し苦労だったようですね。電話、助かりました」
「良いってことよ。にしても、えらく心配してたな。さっきから何回掛けてんだよ」
「どうにも落ち着かなくてね。早く確認しておきたかったんだ」
困り顔でそう言う今日会ったばかりの蔵馬を、やはり『妖怪らしくない』と桑原は思った。
「さて、オレもそろそろ失礼しようかな。幽助、どうしましょう? しばらくは目を覚まさないと思うけど……」
「いーよ、あのまま寝かせときゃ。前にも預かったことあるしな」
「そう? じゃあお願いします。明日の放課後、また様子を見に来るよ」
「起きたらさ、ちょっとからかってやろうぜ。『雪村たちは、もう……!』みてーなカンジでさ」
「……シャレにならないと思いますけど。大事な彼女なんでしょう?」
「じゃあ優梨さんで」
「それはダメだ」
ぞくり、と得意の霊感が働いた。怒ってる。確実に。
前言撤回。コイツやっぱ妖怪だ。
(〜〜なにムキになってんだよ!?)
無意識で言っている蔵馬は、その感情の理由をまだ知らない。
――†††――
次の日、皿屋敷中学は休校となった。
あれだけの事があったのだから当然と言えば当然。
だが生徒にはその事情は伝えられず、興味本位で学校周りをうろつく者、素直に休みを満喫する者、中にはライバルに差をつけるべく勉強にいそしむ者など、様々だった。
そんな中、ぼたんは螢子を引き連れ桑原宅を訪れる。
「もう、本当に心配してたのよ。ぼたんさん、警察に連れて行かれたっきり全然戻ってこないんだもの!」
「いやぁ、ちょっと色々ゴタゴタしちゃってさぁ。麻薬の密売人と間違えられちゃってね」
「幽助と一緒に調査してたっていう、例の? でも釈放されたって事は誤解は解けたのよね?」
「え〜っと、まぁね。話をつけてくれた人がいてさ」
「どんな人?」
失敗した。この流れでは優梨ともエリカとも言えない。
「じ、事務所の社長だよ! レーカイ探偵事務所の閻魔小太郎社長!!」
「……変わった名前ね」
思わず言ってしまった。
使うつもりのなかったその名。
(非常事態です〜! コエンマ様、お許しを〜!!)
どうか地獄絡みの仕事を押しつけられませんように。そう祈った。
――†††――
そして同日の夕刻。
優梨もまた、桑原宅を訪れるつもりでいた。手早く帰り支度を済ませ、足早で教室を出る。
しかし校門まで来たところで、回れ右したくなった。黒ずくめの逆毛がじぃっとこちらを見ている。
(うわ……また出たよ)
飛影だ。だが彼は優梨の存在は知らない筈。一体なぜここに?
素知らぬ素振りで通り過ぎようとした時、素早く腕を掴まれた。これには優梨もぎょっとなる。
「どこへ行く?」
「え〜っと、どちらさま?」
「とぼけても無駄だ。今日は付き合ってもらう」
「なっ!?」
気づいてる。確信を持って、彼は"エリカ"に会いに来たのだ。
しかし……何故バレた?
「〜〜ちょっと来てッ!」
ここで話をするのはマズい。そう思い、逆に飛影の腕を取って急ぎ足でその場から離れた。