守りたい 第一部


□第13話
4ページ/7ページ




優梨が家に着くと電話が鳴った。蔵馬からの、無事を確認する連絡だった。

『もしもし優梨? 突然なんだけど、その……怪我とかしてないか?』

受話器の奥でネコの鳴き声がしたので、桑原の自宅からだろう。疲労も残っているであろうに、まだ帰っていなかったのか。

「怪我? なんともないけど、何で?」

我ながら白々しいと思う。
心の中でそっと詫びた。

『そう、ならいいんだ。今日ちょっと妖怪絡みの騒ぎがあってね。気になったものだから』

「心配性だなぁ秀ちゃんは。私、大丈夫だよ。そのテの事なら、ある程度自分でなんとか出来るから」

『ダメだ、自分で何かしようとかは考えるな! 無茶な事はするなと言っただろう』

安心させるつもりが裏目に出た。
怒ってる。

『あ……すまない。とにかく危険に首を突っ込むような事はしないでくれ。何かあったらすぐに逃げるんだ。いいね?』

「?? う、うん。分かったよ。わざわざありがとね。じゃあ……」


――†††――


「……本当は、傍で守れれば一番良いんだけどね」

電話を切った後、蔵馬は誰に言うでもなくそう呟いた。

「おーい蔵馬、優梨さん大丈夫だったか?」

「ええ、取り越し苦労だったようですね。電話、助かりました」

「良いってことよ。にしても、えらく心配してたな。さっきから何回掛けてんだよ」

「どうにも落ち着かなくてね。早く確認しておきたかったんだ」

困り顔でそう言う今日会ったばかりの蔵馬を、やはり『妖怪らしくない』と桑原は思った。

「さて、オレもそろそろ失礼しようかな。幽助、どうしましょう? しばらくは目を覚まさないと思うけど……」

「いーよ、あのまま寝かせときゃ。前にも預かったことあるしな」

「そう? じゃあお願いします。明日の放課後、また様子を見に来るよ」

「起きたらさ、ちょっとからかってやろうぜ。『雪村たちは、もう……!』みてーなカンジでさ」

「……シャレにならないと思いますけど。大事な彼女なんでしょう?」

「じゃあ優梨さんで」

「それはダメだ」

ぞくり、と得意の霊感が働いた。怒ってる。確実に。
前言撤回。コイツやっぱ妖怪だ。

(〜〜なにムキになってんだよ!?)

無意識で言っている蔵馬は、その感情の理由をまだ知らない。


――†††――


次の日、皿屋敷中学は休校となった。
あれだけの事があったのだから当然と言えば当然。
だが生徒にはその事情は伝えられず、興味本位で学校周りをうろつく者、素直に休みを満喫する者、中にはライバルに差をつけるべく勉強にいそしむ者など、様々だった。

そんな中、ぼたんは螢子を引き連れ桑原宅を訪れる。

「もう、本当に心配してたのよ。ぼたんさん、警察に連れて行かれたっきり全然戻ってこないんだもの!」

「いやぁ、ちょっと色々ゴタゴタしちゃってさぁ。麻薬の密売人と間違えられちゃってね」

「幽助と一緒に調査してたっていう、例の? でも釈放されたって事は誤解は解けたのよね?」

「え〜っと、まぁね。話をつけてくれた人がいてさ」

「どんな人?」

失敗した。この流れでは優梨ともエリカとも言えない。

「じ、事務所の社長だよ! レーカイ探偵事務所の閻魔小太郎社長!!」

「……変わった名前ね」

思わず言ってしまった。
使うつもりのなかったその名。

(非常事態です〜! コエンマ様、お許しを〜!!)

どうか地獄絡みの仕事を押しつけられませんように。そう祈った。


――†††――


そして同日の夕刻。
優梨もまた、桑原宅を訪れるつもりでいた。手早く帰り支度を済ませ、足早で教室を出る。
しかし校門まで来たところで、回れ右したくなった。黒ずくめの逆毛がじぃっとこちらを見ている。

(うわ……また出たよ)

飛影だ。だが彼は優梨の存在は知らない筈。一体なぜここに?
素知らぬ素振りで通り過ぎようとした時、素早く腕を掴まれた。これには優梨もぎょっとなる。

「どこへ行く?」

「え〜っと、どちらさま?」

「とぼけても無駄だ。今日は付き合ってもらう」

「なっ!?」

気づいてる。確信を持って、彼は"エリカ"に会いに来たのだ。
しかし……何故バレた?

「〜〜ちょっと来てッ!」

ここで話をするのはマズい。そう思い、逆に飛影の腕を取って急ぎ足でその場から離れた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ