守りたい 第一部
□第13話
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「参ったなー、これじゃ調書取れないよ」
(ふぇ〜ん、参ってんのはコッチだって!)
ぼたんは困っていた。
いや、困り果てていた。
魔回虫に取りつかれた教師・岩本らから螢子と共に逃げ回り、あわや絶体絶命の大ピンチというところで虫笛の効果が切れた。
幽助が朱雀を倒したのだろう。これで町もひと安心。幸い、自分たちのケガもそれほど酷いものではない。そこまでは良かったのだ。
なのに、なぜ今自分は警察のご厄介になっているのか。
「だ〜か〜ら〜、あたしはなぁんにも知らないんですってば。校内で突然ヘンな人たちに襲われて、訳も分からず逃げ回ってただけなんですって!」
「しかし、キミはあの学校の生徒じゃないんだろう?」
当然だ。生徒どころか人間ですらない。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「ぼたんちゃん」
天の助けかと思われるその声は……
「優梨ちゃぁぁぁん!」
突如現れた救い主にぼたんは思わず抱きついた。取り調べをしていた警官は、優梨と共に入ってきた上司らしき人物に指示を受ける。
「彼女は解放してさしあげろ。被害者だし、事情は何も知らないようだからな」
「よろしいのですか? 身元が不確かなままですが……」
ぼたんに人間界の戸籍は無い。被害者であるにも関わらずこんな所まで引っ張られてしまったのは、それがネックになっているせいでもあったのだ。
現に同じ境遇にあった螢子は、あっさり解放されたのだから。
「それも、もう良い。向かえに来た彼女が保証すると言っている」
「あの子も未成年でしょう?」
「彼女は浦飯澪華の孫娘だ」
「なっ、本当ですか!?」
浦飯家の名は、実は有力だ。
幽助の行動の悪評によりこの辺りでは不良の代名詞になっているが、元々はれっきとした名家なのだ。
澪華は、財界や政界にも顔が利く。涼司を厳しく育てていたのも、その名に恥じぬようにという彼女なりの親心だった。
警察としてもそんな相手との揉め事は出来れば避けたいハズ。
優梨はそう思い、あまり出したくはなかったがあえて浦飯の名を使ったのだ。
「助かったよ。身元引受人なんてあたしにゃいないからさぁ」
優梨はぼたんと二人、警察庁内部を出口に向かって歩いていた。
ようやく拘束から逃れたぼたんはぐん、と伸びをする。筋肉が凝り固まっていたところを見ると、よほど座り疲れたようだ。
「ジュニアさんがいるじゃん。向かえに来てもらえばよかったのに」
「通信機、壊れたままだもん。それに名前はどーすんのさ。"コエンマ"様だよ?」
「そこは適当にアレンジしてさ。例えば……そうだなぁ、"閻魔 小太郎"とか」
「アッハハハ、なんだいその名前」
笑われた。おかしいな、会心の出来だと思ったのに。
「それにしても、よくここだってわかったねぇ」
「飛影が教えてくれたんだよ。こっちもみんなどうにか生きてるよ。幽助は桑原くんの家でお世話になってる。あ、コレはエリカから聞いたって事にしといてね」
「なんだか面倒だねぇ。使い分けるの、大変じゃないかい? もうバラしちゃえばいいのに」
「そんな事言わないで協力してよ。せっかくキャラも確立してきたんだから。あ、それより一つ聞きたいんだけど」
「あたしにかい?」
「カツ丼、食べた?」
「……食べてない」
ちょっとガッカリした。