守りたい 第一部
□第6話
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「両親とも小さい時に死んじゃってね、お祖母さまに引き取られたの。最初はあぁじゃなかったんだよ。私のことも不憫に思ってくれてたし」
先程の姿からはとても想像がつかない。
「変わっちゃったのは七、八年くらい前かな? お祖母さまの息子……つまり私の叔父さまに当たる人なんだけど、行方不明になっちゃって」
「行方不明?」
「そ。それ以来あんなカンジ。優秀な息子が居なくなって、残ったのは出来の悪い孫娘。ショック大きかったんだろうね」
澪華は息子の涼司を溺愛していた。成績優秀・品行方正。温和な性格で人望も厚い。自慢の息子だったのだそうだ。
「キミだって海皇に通っているなら充分優秀だろう?」
「成績は別に可もなく不可もなくだけど、涼司兄さん……あ、私叔父さまの事そう呼んでたんだけど、その人とは比べ物にならないし。主席合格で生徒会長だよ? おまけにサボり魔の私と違って皆勤賞」
「なるほど、確かに優秀だ」
さぞかし比べられたことだろう。
「……でもね、ホントは多分そこが重要なわけじゃないと思うの」
「どういう意味だ?」
「良い成績を修めても、有名な賞を取っても……"私"じゃダメなんだよ」
あぁ、この表情は以前もこの場所で見た。泣きそうに微笑む、儚げなそれ。
「お祖母さまにはきっと、涼司兄さんじゃなきゃダメなの」
どれだけ努力しようが、尽くして見舞おうが、決して認めてもらえない"自分"。
このわずか十五歳の少女を、蔵馬は痛々しいと感じた。
「ね、秀ちゃんにはいる? そういう人」
突然自分に話題を振られ、目を丸くする。
「どうだろうな。考えた事も無い」
「じゃあ考えて」
「今?」
「今」
やはりこの少女は変わっている。そう思いながらも考えを巡らせてみた。
いるとすれば母・志保利。今、一番救いたい人。
「母さん……かな?」
「お母さん? 前にロビーで見た人だよね」
「今、この病院に入院してるんだ」
「入院!? どこか悪いの? あ、ひょっとしてお見舞い途中で引き留めちゃった? ゴメン」
「いや、話し掛けたのはオレの方だし。別に謝る必要は……」
「じゃ、行こ」
「は?」
「だって、お見舞いに来たんでしょ?」