守りたい 第一部
□第6話
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放課後。
いつものように、祖母を見舞うために病院へ赴く。ネームプレートに書かれた"浦飯澪華"の文字。
たった一枚のドアを酷く重いと感じるのは、今に始まった事ではない。しかしそれでも緊張は拭えなかった。
息を吸って、ノブを引く。
部屋の中には、久しぶりに見た体を起こしている祖母の姿。
「あ……起きていらしたんですね、お祖母さま。気分はどうですか?」
その人は虚ろに窓の外を眺めている。ピリリ、と空気が張りつめた気がした。じんわりと手に汗がにじむ。
「何か飲み物でも……」
「涼司はどこ?」
「…………」
「お前なんか、呼んだ覚えは無いわ。涼司はどこなの?」
「お祖母さま、涼司兄さんは……」
「涼司は……どこなのよぉぉ!!」
澪華は優梨の髪を掴み、力任せに引っ張り回した。
「涼司がッ、涼司がいないのに! なんであんたが、あんたなんかが来るのよぉぉ!!」
瞳孔を開き、唇を歪ませて叫ぶ。
大丈夫。いつもの事だ。
しばらくすれば、おさまるのだから。
「大丈夫だったかい、優梨ちゃん?」
十分程経った頃、澪華をなだめ終えた主治医が声を掛ける。結局あれから物は投げるわ人は集まるわで、追い出されるように部屋から出た。今は看護士が付き添い、落ち着いている。
気が済んだ訳ではなく単純な疲労によるものだが。
「いつもの事ですから」
乱れた髪を手で梳きながら答える。
これ以上居座って、また神経を逆撫でするわけにもいかない。『後は我々が』という医師の言葉に甘え、帰ろうとしたその時だった。
「優梨」
「……秀ちゃん?」
声を掛けられ、振り返ると蔵馬がいた。よくよく縁のある人だ。
――†††――
「ヤなとこ見せちゃったね」
「すまない。覗き見するつもりじゃなかったんだが……」
「謝る事ないよ。あれだけ騒ぎになっちゃったら、そりゃ気になるよね」
病室から離れたいという優梨の願いにより、屋上へ場所を移して言葉を交わす二人。
「私ね、嫌われてるんだよ。だからいつもあんなカンジ」
なんでもない事のように優梨は言う。あれだけの事をされておきながら。
「何故そうまでされても見舞いに来るんだ? 普通は嫌になるだろう」
「嫌とかは考えた事無いけど……私しか来る人がいないから、かなぁ? やっぱ一応、育ての親だしね」
『来る人がいない』
『育ての親』
マズい。聞いてはいけない事だっただろうか。
そんな蔵馬の思いを知ってか知らずか、優梨は続ける。