守りたい 第一部


□第3話
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「すごいオンボロ……こりゃ妖魔も出るよね」

噂の廃屋にやって来た優梨。予想以上の廃れっぷりに、思わず感心してしまう。
屋敷自体はかなりの大きさだ。相当金持ちが住んでいたのだろう。

(ってか、人が入れるかも怪しいよね。まさか床とか壁とか、腐ってないだろうな)

あまり気乗りはしないが、やると言ってしまった以上後へは引けない。よし!と気合いを入れて、足下を探りつつ中へ侵入した。

しばらく進むと広い部屋に出た。大きなソファ。日本なのに暖炉。いかにもな絵画と剥製。これでもかと言わんばかりのシャンデリア。

(いくら何でもやり過ぎでしょ。ここは欧米か!?)

一人心の中でツッコんでみるが、なんか虚しい。

その時――
ふと羽音が聞こえ、足を止める。ゆっくり振り返ると、そこには妖気を纏ったコウモリらしき生物が。

「ケケケ、人間ダ。人間ノ女ダァ……」

「…………」

コイツか。妖力も聞いていた通り。間違いない。

「アンタのおかげで、この辺りに住んでる人たちが迷惑してるらしいんだよ。悪いけど、もうちょっとひっそり暮らしてくれないかな?」

「ケケケ、人間……女……霊気……! エサァァーー!!」

駄目だ。話して分かる相手じゃない。
優梨は懐からクナイを取り出し、すぐさま身構えた。
立て続けに二本投げつけるが、かわされる。的が小さすぎるのだ。

「クッ、ケケケケケ。女ァ……喰ッテヤルゥゥ!!」

冗談じゃない。こんな寂れた廃屋で一人、妖魔に喰われて迎える最期など死んでも死にきれない。

「キシャーー!!」

突如、耳をつんざく不快音。妖魔から超音波のようなものが発せられた。
途端にガクリ、と体から力が抜ける。

(……違う。コレは、霊気を吸収してる!?)

周辺住民の体調異変はこれが原因か。だとすれば、長引かせるのは不利。
優梨は一気に勝負を決める事にした。
右手の拳に気を集中させると、パァァッと光を帯び始める。

「……ショット!!」

輝く拳から霊気の弾丸が複数放たれる。通称"ショットガン"。

「グゲェ!!」

隙間なく撃たれ、その中の数発が妖魔に直撃。意外にもあっさり倒れたのだった。

「まぁ、下手な鉄砲数打ちゃ当たるって言うしね」

「確かになぁ。だがそんな戦法が通用するのは雑魚だけだ」

「……っ!?」

誰もいないはずの背後から声。気配など、感じなかったのに。
振り返って見やれば、そこには隻眼の男が一人。見た目は壮年だが相手は妖気。妖怪の年齢など、見た目では図れない。

「……誰?」

「悪い事ぁ言わねぇ。お前さん、このテの世界にゃ関わるな。中途半端なウデで派手にやらかすと、そのうち死ぬぜぃ」

質問には答えず、ニタリと不気味に笑みを浮かべている。

「そうだとしても、あなたには関係ないと思うけど?」

「聞き分けのねぇ嬢ちゃんだ。年長者の意見には耳を傾けるモンだぜ? 人間素直が一番ってな」

腹が読めない。この男は何がしたいのか。
何よりも不安なのは、妖力の大きさが見えない事だ。実力を隠している。

「ご忠告どうも……でも、私の事は私が決めるから」

そう言って優梨は男の横をすり抜ける。すると目の端でギラリと何かが光った。

(刀!?)

風を切る音と凄まじい風圧が優梨を襲う。ギリギリで避けたものの、体勢を立て直す間も無く男は切りかかってくる。

(ダメだ、速い!)

一気に詰め寄られ『切られる!』と思った。
しかし……

「っ、く!」

迫ってきたのは刀ではなく、男の腕だった。前頭部を掴まれ、そのまま力任せに壁に押し当てられる。
その腕を伝って体中に電流のような衝撃が走り、力がどんどん抜けていく。

「うっ……く、あぁぁ!」

「お前さんは、こっち側に来ちゃいけねぇんだよ」

薄れゆく意識の中で、男がそう呟いたのが聞こえた。
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