幻想郷**

□モザイクロール
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見なくていい世界があるとするなら、見せたくない。人が天人を、天人が人を、人が人を、憎しみ合うのは間違っている。見せたいものは、穏やかで温かくて、刀をとることのない世界。
でも今のご時世とは真逆で、しょせん夢物語なのだろう。今もこうして足元に誰のものかわからない亡骸が転がっている。明日こうなるのは自分だと、悲しみに明け暮れ怯える日々にはもう飽きた。

『銀時には、こんな世界は見せたくなかった』
「凜音ちゃん、それなんて言うか知ってる?過保護ってーんだぜ」
その無垢な瞳を、無邪気な笑顔を、わたしは守れないのだろうか。彼を守れなかったときと同じように、大切な宝を守ることも出来ないのだろうか。
血で血を洗うようなことを、させていいのだろうか…

『なぁ銀時。お前は逃げてくれ』
「、は?なに言って、」
『明日天人が攻めてくるとの情報がはいっているんだ。だから逃げるなら、今夜の内だ』
もちろん納得がいかないようで、激しい口論になった。

「おめーはいつだってそうだ、なんでも一人でやろうとする。そんなに俺が頼りないかよ!」
『頼りにしている。だが、』
「じゃあ戦わせてくれよ!先生が殺されたときみたいに指を咥えて待ってろっていうのか!?」
『お願いだ銀時、わかってくれ』
「わかりたくもねーよそんな自己満足な考え!!俺も一緒に…凜音の隣に、立たせてくれよ…」
埒が明かないと踏み、彼の鳩尾に拳をお見舞いしたのはつい先ほど。

『辰馬、頼んだぞ』
「ああ、任せてくれ」
辰馬の馬車で逃げる算段。これで大丈夫だろう。切ない彼の声色に耐えられなかった。本音をいえば、共に戦場を駆け抜けたかった。
愛したかった。笑かけたかった。共に、歩んでいきたかった。
でもわたしは不器用だから、彼を遠ざけることしかできなかった。


「本当に良かったのか」
『…ああ、これが、精一杯だ』
晋助は全てお見通しだっただろうが、それ以上は聞いてこなかった。わたしの気持ちを汲んでくれたのだろう。

「凜音は不器用な愛し方しかしらねーんだな」
『ははっ、そうだな。晋助と一緒でな』
鋭いこの子は、わたしがやろうとしていることを知っている。知っているから、協力を惜しまないと言ってくれた。

『わたしは明日殺されるだろうな』
「なに弱気なこと言ってんだ。おめーはそんなに弱くあるめぇ」
いや、殺されてしまうだろう。銀時の、悲しみに。憎しみに。寂しさに。何かを憎むのは、もうわたしで終わりにしてほしい。そう願うわたしは、やっぱり弱虫だ。

どうか、あなたを傷つけることしかできなかったわたしを、許してください。


fin.

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