うちよそ短編集

□アメ降らし
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久しぶりの非番の事である。
アルトは今日こそは溜まっていた本でも読みふけろうかと、静かな場所を求め廊下を歩いていた。
趣味である料理に関する本も、読めないものが連日の任務でいつの間にやら増えていたからである。

しばらく歩いて曲がり角に差し掛かろうかとした時だ。
なんだか忙しない足音が聞こえてきた。その足音はどうにも不安定で、何かを抱えながら歩いてくるように聞こえた。

もし邪魔でなければ手伝おうかと、曲がり角に出ようとした瞬間。
急に足音が跳ねるように鳴り出し、目の前の視界には大きい袋を抱えた女性が見えた。
当然急な変化に対応出来ず、直後には袋から散乱した何かと尻餅をつくアルトとフィオの姿がそこにあった。


「いったぁーい! んもぅ〜気を付けてよねー」

「ゴメンね。手伝おうかと思ってさ」
そういいながらアルトが手を差し伸べれば、フィオが手を掴んだところで目を見開いた。

「ってなんだアルトじゃん。ゴメンね、前見えてなくてさぁ」
フィオの言い分につい先ほどの謝罪がなんとなく勿体無いと思ったのは、気のせいではないだろう。
気持ちを切り替え、アルトはフィオに何をしていたか訊ねる事にした。

「ところで何してたの? 随分沢山の荷物だけど…」
そういって散乱した何かに目を向ける。
よくよく見てみれば、それは大量の棒付き飴。
一体なんだろうと目線だけでフィオに問えば、フィオはいつものイタズラっぽい笑い方で答えた。

「いや〜、僕これ好きなんだよね〜。この味とかもう病み付き! ずっと舐めていたいぐらい!」
そう言って差し出してきた一つを見れば、書かれていたのはチョコ味の文字。

「これ全部フィオの?」

「うんにゃ。皆に配る分も用意してあるんだ! もちろんアルトにも」
差し出してきた別の飴を受け取るアルト。因みに初恋ジュース味と書かれている。
ここ極東支部の名物まで別商品化されているとは、誠に恐ろしい限りである。

「…あ、配るの俺も手伝おうか?」
心のもやを振り払うかのようにアルトはフィオに持ちかける。

「お、良いの? サンキュー!」
こうしてアルトの久しぶりの非番は終わってしまったのは言うまでもない。
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