うちよそ短編集
□嘘
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旧市街地付近。任務を終えたノジアとリュウは、迎えを寄越すようアナグラに通信を入れたところだった。
「迎えの進行上にも何匹かいるみたいで遅れるんだと」
タバコに火をつけながら、めんどくさそうにリュウは告げる。
「ん。そうか」
さして気にした様子もなく、ノジアは頷く。そして、辺りをなんとなく見渡した。
その時、なんとなく違和感を覚えた。その違和感がなんなのか、少し考えてみても分からない。
すると、リュウがノジアを置いてふらりと歩き出す。
「…どこ行くんだ?」
「迎えが来るまで、ちょいと…な」
ノジアの問いに、はぐらかしたように答えるリュウ。
彼が煮え切らない答えをするのは少し珍しかったので、ノジアも珍しく気になり、リュウについて行く事にした。
市街地から少し外れた場所に着いた。
アラガミの侵略のせいか、この付近はさらに酷い有様で、まだ昼だというのに辺りは薄暗い。
しかし同時にどこか懐かしい気がした。
「…変わらねぇな」
リュウが皮肉そうに呟く。
「知ってるのか?」
そのリュウの表情を見てノジアは少し驚き、そして問いかける。
「ここはな、アラガミのせいだけでこうなったんじゃねぇ。元からこんなもんだ」
リュウの言い草から察するに、どうやらここは人がいた頃からこんな有様だったようだ。
スラム街、貧困街。言い方は様々だか、どうもそういう類の所らしい。
そこまで考えてようやく先の思いに合点がいった。
似ているのだ。自分が経験してきた人の醜さが詰まったような世界に。
自然と体が熱くなる。もうあの時ほどの感情は無いと思っていたが、それでもこの景色に出会うと。
怒り、憎しみ、悪意。ドス黒い何かが心を蝕む。
不意に肩を叩かれた時だった。
無意識に携帯している拳銃を抜き、後ろの人物に突きつけてしまう。
それがリュウだと気づいて、銃を降ろす。それと同時にノジアは謝った。
「…すまん。つい」
「気にすんな。お互い様だ」
リュウの言葉に気付き、手元を見る。そこには傷だらけのサバイバルナイフが見えた。
手入れされていないのか、血脂まみれのそのナイフを、リュウはゆっくり仕舞い口を開く。
「…お守りみたいなもんだ。実際に使った事は無ぇ」
「お守りか…。俺も似たようなものだ」
その言葉が何となく可笑しくて、二人はどちらからとも無く笑う。お互い嘘は下手なようだ。
あれ程の憎悪の世界にいたのに。いや、いたからこそだろうか。こんなにもまだ生に執着してしまうのは。
日が落ちてきた頃、少し遠くで声が聞こえた。
「…帰るか」
「あぁ…」
踵を返す二人の表情は先程の暗い雰囲気とは違い、どことなく穏やかだった。
→あとがき