うちよそ短編集
□闇夜
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午前二時。任務後の事後処理やなんやらをようやく終えたノジアは、一人訓練所を目指していた。
普段から訓練を欠かさないノジア。この時間帯を選ぶのは、単に任務などで遅くなるだけではなく、人もまばらな時間帯を狙っているからである。
「ん‥‥先客か」
訓練所のドアに差し掛かった辺りで、中から音がする事に気付いた。覗くつもりはなかったが、普段この時間帯に誰かが使う事も珍しいのでドアを少しばかり開け、様子を窺う。
「‥‥あれは」
金色に輝く髪をなびかせ、次々に現れるダミーアラガミを倒す人物。
いつも着ている白のスーツはドアのそばに脱ぎ捨てられており、黒いシャツをはだけさせながら動き回る響鬼がそこにいた。
斬撃後の離脱タイミング、射撃の素早さ、いつもの陽気な彼からは想像し難い鬼気迫る表情にふと魅入ってしまう。
「そんなとこいないで、入って来なよ」
ダミーアラガミを全て倒し、汗を拭いながら背を向けたままに呼びかけられる。
「すまない。覗くつもりはなかったが‥」
謝罪とともにノジアが訓練所に足を踏み入れる。
「別に良いよ。それより使うんだろ? じゃ俺はこの辺でやめとくよ」
そう言ってスーツを拾い、肩にかけながら去ろうとする響鬼。
「随分と迫力があったが‥」
何かあったのかと、言外に含んだノジアの問いかけに響鬼は足を止めた。
「‥今日は想い人の誕生日でね。ただの八つ当たりだよ」
彼が想いを寄せる人物。それはあのいつも笑っている彼女だろうか。
「因みにアイリーンちゃんじゃ無いよ。一番好きだった子さ」
口に出してもいなかったが、響鬼にはその間で伝わってしまった様だ。
「そうか‥」
なんとなく分かった気がした。だからだろうか、いつもならそこまで踏み入れて関わる事も無いノジアが次の言葉を放ったのは。
「‥‥八つ当たりには付き合えないが、訓練なら一緒に付き合うぞ」
ノジアの言葉にようやく響鬼が振り返る。
「言っとくけど、ノジアにだって負けるつもりは無いよ?」
「‥ん。俺もだ」
自分以外に誰を引き合いに出しているかはすぐにわかった。
それよりも自分はなぜ気にかけたのか。それが不思議だった。
二人で訓練を繰り返しながら、先の事を考える。多分自分が思ってる以上に、周りの人間には抱えてる暗さがある。
自分だけじゃ無い。きっと隣の彼もまたそうなんだろう。
そう考えふと視線を送った先、響鬼の表情は少しだけ泣きそうな顔に見えた気がした。
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