うちよそ短編集
□面倒見
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とある朝のラウンジ。早くに目が覚めてしまったラエはソファに腰掛け一息ついていた。
「あれは…」
そこに通りがかる人影。まだ人もまばらな時間帯でその人物は不思議と目立っていた。
影咲リュウ。確かあのやかましい女と、やたらと女にだらしのないチャラい男といつもつるんでいる人物だ。
何度か話したこともあるが、そこまで口数の多い人間ではない。よくもまぁあのやかましい二人と付き合いがあるものである。
まあ自分も人の事を言えた義理もないが。そう考えたところでその人物が受付で足を止めた。
「任務か…」
今日自分は非番である。その皺寄せがいってるのかと思うと、少しばかり申し訳なく思ってしまうがこの職業では日常茶飯事である。ここは大人しく非番を堪能させてもらおうと考え、目の前のコーヒーに手を伸ばし口をつけようとしたときだった。
「本日の任務、合計7個ですね。承りました」
「ああ」
「ブッッ!?」
思わずコーヒーを噴き出すラエ。今しがた聞こえた任務の数は何かの間違いだろうか。いや、確かに7個と聞こえた。
「お前何回出撃すんだよ…」
思わずリュウの側まで行き、声をかけた。
「…7回」
「いや、聞こえてたっつの。全部一人か?」
「ああ」
さも当たり前といった感じで表情ひとつすら変えずにリュウは淡々と答える。
ラエは呆れて言葉を失いかけたが、何とか絞り出す。
「いや、半分くらい誰かに頼めよ。それかいつも一緒のあいつらにでも付き添ってもらうなりよ」
そもそも一回の出撃でもそれ相応の死の可能性があるのに、ましてや一人で7回も出撃とあってはいくら手練れでも命がいくつあっても足りないだろう。
ラエはぶっきらぼうではあったが、相手の身を案じた言葉をかける。
「…あいつらは防衛任務があるしな。それの負担を減らす仕事と考えりゃ別に苦でもねぇ」
少し意外であった。リュウの全てを知ったつもりなど毛頭無かったが、それでも仲間を思う気持ちを他人に吐露するような性格には見受けられなかったから。
「……ハァ。俺でよければ手伝うぞ」
そんな態度を取られて無視できるほど心は強くない。ラエは渋々ながらにリュウに申し出る。
「……」
「なんだよ」
リュウは少し目を見開いて、すぐにいつもの表情に戻った。それから口端を少し吊り上げて皮肉を放った。
「随分と面倒見が良いな」
「ほざけ」
お前に言われたくない。心からラエはそう思った。
おまけ