月
□俺の可愛い彼女
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「まもちゃーん、ご飯できたよー?」
「ああ、もうすぐ行く」
書斎でいつものようにレポートを仕上げていると、キッチンから彼女の声がした。
来月高校生になる彼女、奥さんになる練習をするんだ。なんて可愛い事を言って最近は夕食を作ってくれるようになった。
『ふぅ・・・』
一呼吸ついて、椅子に座ったまま伸びをして眼鏡を外した。
部屋を出ると、暖かな食卓の香りがする。
ウチの奥さん研修生は着々と腕を上げているようだ。
「うさぎちゃん、お皿これでいいの?」
「ありがとうルナ」
セーラー服の上から桃色のエプロンした彼女がテーブルに皿を並べていく。
彼女の親友のルナも一緒に毎回奮闘してくれているようだ。
「あっ、まもちゃんお疲れ様ー」
『ほわ・・』と笑顔で迎えてくれる彼女。
「ごめんなうさ。せっかく来てくれたのに」
「いいのっ、私が勝手に来てるんだし」
ぎゅっと抱きしめると、甘えるように擦り寄ってくる。
もっと抱きしめたくなってしまうが、今は頑張って作ってくれた食事を褒めたほうが彼女は笑ってくれるだろう。
「ふふっ、じゃあクイズっ。今日のご飯はなんでしょうっ?」
唐突に話が変わるのは、おしゃべりな彼女の楽しい癖だ。
「簡単すぎ、お前の髪ですぐ分かるよ。シチューだろ?」
実は彼女が駆け寄ってきた時点で大体の予想はついていた。
「ええっ!?そんなに髪に匂いついてた?」
左右にキラキラと揺れる髪を鼻先に持っていって嗅いでいる。
なんだか小動物を彷彿とさせる行為に、笑みが深まってしまう。
「ぅう?よく分からない・・」
「今日も頑張ってくれたんだろ?早く食べよう」
「ま、いっか。」
俺の言葉にあっさりと思考を切り上げて食卓のしたくに戻った。
席についてちょこまかと働くうさぎを眺める。
踊るように煌く髪が見ていて飽きなかった。
ふと思いついたことを口にする。
「そういえば・・・もうその制服も見納めか」
「そうねェ、こないだ高校のセーラー服届いたのよ」
俺の呟きに答えたのは、ルナだ。
「へェ、そうか。高校もセーラー服だったな」
「今度見せてあげるねっ、今のよりちょっと大人っぽいんだよー」
キッチンの電気を消し、エプロンは畳みながらうさぎが食卓についた。
彼女自身は嬉しそうだが、なんだか寂しい気もする。
彼女とであったときも、喧嘩した時も、一緒に敵に襲われた時も、今のセーラー服姿だったからだ。
「まもちゃん・・・」
不思議そうにじっと俺を見つめていたうさぎが、そっと手を重ねてきた。
「?」
「大丈夫だよ?また新しいセーラー服で思い出いっぱい作れるから・・・」
「/////」
考えていた事が見事にバレていたようで、俺の顔が熱くなる。
「これからも、ずっと一緒だよね?」
にっこりと微笑んだうさぎに、答えようとした時だった。
「うさぎーーー!!」
『がくっ』と二人でよろめく。
この元気な声を俺達が聞き間違えるはずがない。
「こらーーー!なんで何も言わずに行っちゃうのよ!探したでしょ!」
ぷんぷん怒りながら入ってきたのは、もちろんピンクの髪の可愛い少女だった。
頬を膨らませながら『ぼふんっ』とうさぎに抱きつく。
「ごめんごめん。でもテレビに夢中だったみたいだから」
「一声かけてもいいでしょー!あ、まもちゃんお邪魔します」
「あ、ああ」
怒っているのかと思いきや、普通に俺に挨拶してくるので返事がぎこちなくなってしまった。
「しかもまた二人でご飯食べようとして!」
うさぎの胸に顔をうずめてむくれ続けるちびうさ。
うさぎと顔を見合わせて苦笑する。
ルナが軽々とテーブルに飛び乗り、用意された自分の小さな皿の前に座った。
「ちびうさちゃーん。二人とも待ってたのよ?」
「へ?」
ルナの声にキョトンしてテーブルを見ると、
うさぎの隣の席にもしっかり一人分用意されている。
ちびうさのものである証拠に、彼女愛用のカップも置いてある。
「・・・・////っ」
嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせた。
「うさぎ・・・のばーーか!!」
「なんでよ!用意したのに!」
恥ずかしかったのか、やはり罵倒で終わってしまったがうずめた顔がしっかり笑顔なのが見えた。
ちびうさも席について、やっと家族が揃った。
「いただきまーす」
こんな暖かい日が未来まで続きますように。
END