紅一葉
□平穏な日々
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ピピピピピピッ
無機質な機械音が耳元で鳴り響く。
『ん…』
ゆっくりと覚醒してゆく脳内と暖かい心地にもう一度夢の世界へ誘われそうになるのを必死に耐えながら目覚まし時計を止め、大きく伸びをする。
『ふぁ〜…っ』
ようやく完全に覚醒すると自分の頬が濡れていることに気付く。
また…あの夢をみた。
私であって私じゃない彼女の意思が流れ込んでくる。
物心着いた時からあの“夢"は幾度となく見てきた。
『まぁ…夢のことなんか考えてもしょうがないか。』
あの夢を見た後、ズキズキと痛む頭の痛みももう慣れっこだ。
小さい時は何かの病気なんじゃないかと思ったけど、この頭痛もしばらくすると勝手に収まってその後症状もでない。
ただ、この夢を見ると何故か切なくて何かいい知れね気持ちが溢れそうになる。
『ゆなぁ!!起きてんのか!?遅刻すんぞ馬鹿!起きろ!!』
下からの怒鳴り声でハッと飛んでいきかけた意識を戻す。
『わっ、待って待って!!』
バタバタと慌てて私はパジャマを脱ぎ、着慣れた制服に袖を通す。
床に転がるカバンを引っつかみ階段を駆け降りるとそこには毎日見慣れた呆れ顔があった。
『ぁ、おはよう!!秋ちゃん!』
明るい赤茶色の少しクセのある髪にキリッとした眉、切れ長の瞳にバサバサ生えてる睫毛、スッと綺麗な鼻の形、何処を取っても整った顔立ちの私より頭一つ分ほど大きな男がそこにいた。
『お前は毎日毎日毎日毎日毎日ま…』
『ぁあああああ!!!お説教なら朝ご飯食べてから!』
機関銃の如く始まりそうになる彼―秋夜の言葉を無視して食卓に座り置いてある味噌汁を啜る。
『後何分?』
『もうすでに出なきゃ間に合わねぇ時間だっつーの!!』
耳元でわーわーと喚く秋夜を無視してご飯を口に運ぶ。
『朝飯食ってる余裕がどこにあるんだ!』
『朝ご飯は抜いたらダメなんだって習わなかった秋ちゃん?』
『時と場合によるんだよ!!』
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