短編

□他人の幸せ
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人っていうのは多分、二種類いるんだと思う。自分の幸せが大事な人と、他人の幸せが大事な人。

正直私はどちらにもつかなくて。でも、どちらかというと自分の幸せが最優先かもしれない。
あぁ、それでも好きな人には幸せになってもらいたいかも。
うん。やっぱりどちらでもない。
大学の昼休み。退屈な午前の講義も終わり、庭で休憩をしているときだった。

無駄に多く買ってしまったパンを残すわけにもいかず無理やり腹に詰め込んだものだから重い。飲み物で流したのはいいがやはり腹に溜まってしまうものであって。
失敗した、というものの後の祭りだ。ということでお腹を落ち着かせるための休憩時間でもある。

 講義なんてのは聞いた話を適当にノートに書いて写すだけ。疲れるのは耳と手だけのようなものだ。
あとはテストに向けて必死に頑張るだけ。何が面白くてこんなことをしているのか。時々不思議になるのだけど、自分の将来のためかもしれない。

食べたばっかりだしボーっとしていると聞きなれた声が私の耳の届く。その声を聞いた瞬間無意識に溜息が出た。

「あ、やっぱりここにいたのね」

にっこりとしながら歩み寄ってくる。この柔らかそうな女性は、花でもつけてるんじゃないかって思うぐらい良い匂いがするんだ。
その匂いが鼻に着く。私はあんまり好きじゃない。香水か何かではないらしいけど。

「何か用?」

お腹にまだパンが残ってるから、少し苦しいのであまり喋りたくないけど無視するのもなんだかな、と思って返す。
突き放すような言い方でもこの人は笑うんだ。その笑顔すら嫌になってしまう。何考えてんだか。

「お昼ご飯一緒に食べようかと思って。でも、もう遅かったみたいね」

残念そうにしているが、笑顔は崩さなかった。私の隣に座る。ああ、またこの匂い。とても落ち着かない。
彼女が食べ始めたのを見て、私は目を閉じる。
「寝ちゃうの?」
寝てしまいたいけどやっぱり落ち着かない。すぐに目を開けて「いや、ちょっと目が疲れただけ」と言った。

彼女は「そう」とだけ言いまた食べ始める。黙々と食べるものだ。別にみてて面白いものでもないから周りを見渡す。
この時間帯だからか、人は結構いる。中には恋人同士なのだろうかこんな暑い中手を繋ぐ人も。
それを見てて卑屈にでもなれたらいいのに。そしたらこんな暇な時間もそれだけで潰せるのに。

カップルを見たって何も思わない。卑屈になる方がどうかしてる、とまで思っている。
隣にいた彼女もあのカップルを見ていたのか「仲良しなのね」と微笑む。
いいから早くそれを食べてさっさとどっか行ってくれ、なんて私の願いは伝わるはずもなく、持ってきていた本を開く。

「それ、何?」
「さぁ」

家にあった適当な本を持ってきただけだ。題名も何も見ずに本当に適当に持ってきた。中身は恋愛小説。
つまらない言葉を並べ、ありもしない展開を繰り広げているだけの在り来たりな小説だった。

「面白い?」
「面白いんじゃない。貴女にとっては」

それじゃあ私にとっては?と聞かれると、つまらないの五文字で感想は終わりだ。何も語れるような印象に残る場面なんて一つもない。
今のところは。

後半もきっと予想がつくのだろうけど、何も考えずにただひたすらと文字を追っているだけだった。
内容に集中出来ないのもあるし、集中して読むような内容でもないことも確かだった。
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