短編
□笑ってよ
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「キミってさ、笑わないでしょ」
「は?」
図書室。本を読んでいると目の前に見知らぬ女子がやってきた。
そして、初対面の一言目がこれだった。
彼女は何を考えているのかよく分からない。何故かニコニコと笑っている。
唐突に投げられた言葉になんて反応していいか分からないけどまず言いたいことがある。
「誰」
「ナツミっていいます」
ナツミと名乗った彼女は私の前へやってきて席へ座る。
そしてどこから持ってきたのか分からない本を読み始めた。
「何それ」
「恋愛小説」
恋愛小説か。苦手なジャンルだ。あんなの読んだって胸焼けしかしない。
だいたい、あんな出会いがあるわけがない。電車の中で運命的な出会いをするなんてバカじゃないのか。幻想を抱きすぎだ。
見ててイライラするのだ。それ目的で高校行く女子が。
「そう」
「うん」
ページを捲る音が響く。
私はこの音が好きだ。静かで、心が安らぐ。家も学校もうるさいけど、図書室はいつも静かで好きな居場所だ。
「ねぇ」
「何」
いつの間にか読んでいた本を閉じていて、私の方へ視線を向けている。じーっと見つめたかと思うと急に変顔をしてきた。
「べーっ」
「・・・」
今、私はどんな表情をしているのだろう。もしかして自分でも今までしたことのない表情をしているのじゃないだろうか。
兎に角、彼女の急な行動に意味が分からなくて混乱していた。
「だから、何」
「いや、笑わそうとしたんだけど」
あれ、おっかしいなー、と首を傾げている。
その様子をみてばかばかしくなってきた。こんな奴の相手をしている自分が。
溜め息を吐き、帰ろうと準備をする。すると、彼女も一緒に立ち上がる。図書室から出ようとして出口の方へ歩き出すと彼女も歩き出す。
それが少し嫌になってきて一言文句でも言ってやろうと思った。
「邪魔なんだけど」
「うん。邪魔だと思う。私も」
「そう思うなら退いて。出れない」
「もう帰っちゃうの?」
「えぇ。貴女がいるから静かに本も読めない」
「静かにしてた」
「そういうことじゃなくて・・・」
「でもそういうことなんでしょ?」
あぁ言えばこう言う。会話をする気がないのかこいつは。
呆れて何も言えず、それでも居心地が悪くなってきたから立ち去ろうとしたのにそれでも出口を塞ぐ。
流石にその行動が頭にきた。
「あのねぇ・・・!」
「しーっ」
「っ・・・!?」
叫ぼうとしたら彼女が私の口を塞ぐ。そして、思いっきり顔を近づけてきた。
「ここ図書室だよ。静かにしなきゃ・・・ね?」
そういって彼女は微笑む。その笑みに何故か反論が出来なくて私は黙り込んでしまう。
塞がれていた口は解放され、彼女は「それじゃあ、私は帰るね」と言って立ち去ってしまった。
「・・・なに、あれ」