イナイレ
□その一言が
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あったかい日だった。
今年もあと数週間ほどで終わってしまう、という季節だというのに、今日は日差しも暖かく、冷たい木枯らしも昨日のように頬を撫でたりしない。
やわらかい日差しが心地よく、洗濯物もよく乾く、と黒髪のマネージャーも言っていた。
朝早くの練習の時に言っていたのを聞いて、そうか、じゃあ今日は布団でも干そう。
そう思って布団を干したのはいいんだが……。
「……ちょっと」
「んー」
あと一時間ほどで日が暮れる、という時間に、すっかり昼間の日差しを吸って具合のいい布団を取り込もうとしていた。
「ヒロト。布団入れたいからどいてよ」
「んー…」
背後から優しく抱きしめられていた。
優しく、という割にはしつこいが。
ってか、ほんとにしつこい。
「……もう」
体をゆすっても全く離れてくれない。
布団を抱きかかえた状態で、ヒロトに抱きかかえられている。
そんな状態でどうしようというのか。
しかたなく、ヒロトに抱っこされたまま布団を部屋に引っ張り込んだ。
ほぼ引きずるような形で布団をベッドに運んだ。
よっこいせ、といい匂いのする布団をセットした。
した瞬間だった。
「っ……!……ちょっ……!?」
ばさっ、
と、音を立てて勢いよく仰向けに押し倒された。
ふわりと布団の日の香りがする。
あぁ、布団干してよかった。
……じゃなくて!!
「ヒロト!!」
思わず叫ぶと、いたずらっぽく光るヒロトの瞳と視線がぶつかった。
数センチと離れていない、至近距離で。
日の香りと混じって、ヒロトの、何にも似てないいい香りが鼻腔をくすぐる。
「緑川」
いつの間にか握られて動かせない両手と、割られてしまった足を感じて、これはやばい。そーいうフラグ…?と脳内に警報が鳴った。
「シたい」
やっぱりかあああああと思った瞬間にはもう遅かった。
口付られてる。
「ッ…ふ、ぅ…ンっ!」
貪られる。食べられてしまう。本気でそう思った。
くちゅ、と水音が鳴る。
やらしいことをしてるみたい、と思ってしまい、必死に打ち消そうとした。
とろり、と二人の唾液が混ざったものが、二人の唇の間を銀の橋のように伝い、切れた。
「っはぁ……、」
呼吸困難に陥ってしまう。はあ、はあとだらしなく呼吸をしてしまい、恥ずかしくなって横を向いた。
すると、ヒロトは片手で器用に緑川の服を脱がし始めた。そのその手つきは恐ろしく手早く、ありえないくらい慣れているような感じがした。
「ひっ、ヒロト、待って!」
「やだ」
…………?
なんか違和感。
それは些細なものだったが、緑川は感じ取った。一体なんだろう。なんか、変だ。
「……ヒロト?どうしたの。なんかあった?」
「……っ……!」
ヒロトは驚いたように目を見開いた。ちょっとだけ、なんとなく嬉しそうに見えたのもつかの間で。
「って、ちょっと!?」
気がついたら残っていたのは下着とたくし上げられた上着だった。
何で上着だけ残すんだよ。妙に変態くさい。
やっぱりヒロトは特殊な趣味をお持ちのようだ。
首に唇が落ちてきた。次は鎖骨に、胸に、どんどん下りてくる。ちう、と音を立てられて吸われ、ぞく、と背筋が震えた。
キスマーク、つけられてる。
そう思った瞬間、意味も無く恥ずかしくなった。
「んッ……、ぁ、ヒロト、まって、まってよ……!!」
「緑川、お願い」
ヒロトに下から見つめられ、生唾を飲み込んだ。
なんてこった。
どうしようもない情けない心情になった。
絶対なんか出てる。人の心を惑わす何かが出てる。そうに違いない。てかそうじゃなきゃ困る。だって。だってだってだって。
――襲われてるのに、かっこいいと思うだなんて。