連載

タイトル未決定。
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「……」

「……」

No nameは“その男”とすれ違ったその時、ふと何かを感じた。No nameは思わず立ち止っていた。そしてゆっくりと振り返った。自分だけが何かを感じて振り返ったのなら、気のせいでとどまるのだが、その男の方もNo nameの方を見つめていた。


止まりかけた歯車は…二人が再会したことによって重なり、そしてまわり始めた。


*

「うーん…」

いったいここへ来てどれくらいの時間が経過しただろうか。
No nameは参考書のコーナーを行ったり来たりしていた。高校三年に進級する直前の春休み。形だけでも勉強する姿勢を周りの人に見せつけようと、参考書を買いに来たのはいいのだが目の前に並ぶ多種類の参考書を目の当たりにしてNo nameは圧倒されていた。
とりあえず、気になったものを手に取り数ページほどめくってみるのだが、未だに確定できずにいる。そんな行動を何度か繰り返し、再び目に付いた参考書に手を伸ばそうとしたその時、レジカウンターの方から声が聞こえてきた。


「え?何。ジャンプ売り切れってどういうこと?ここ本屋でしょ?なんで置いてないわけ?」

No nameは棚に伸ばす手を止め、声がしたレジの方を振り返った。No nameに背を向けているので顔は見えないがすらっとしていて背が高い男だった。

「…さぁね。とりあえずウチで仕入れた分は既に売り切れちまったってことだよ」

「なんだそれ…つーかこれで何軒目だと思ってんの?俺がジャンプ買いに本屋とコンビニを買いにまわって」

本屋の主人の受け答えに、その男は露骨に不満そうな声を出していた。

「…そんなもん、俺の知ったこっちゃねーよ。…これ以上ケチな因縁つけるんだったら営業妨害で警察呼ぶぞ」

「チッ…面倒くせェ堅物頑固親父だな」

「なんだと?」

「…なんでもねーよ、こっちの話だ」

すると、その男は浅いため息をひとつついて諦めたように髪の毛を掻きむしりながらくるりと体をこちらに向けたその時、No nameとその男の視線が交わった。
No nameは慌てて視線を逸らした。しかし、No nameの方が視線を逸らしてもその男が逸らしていないのか、尚もじっと見られている感じがする。
No nameはゆっくりとその男の方へ視線を向けると、その男は信じられないものを見るような目つきでNo nameの方を見ていた。
しばらくして、その男ははっと我に返ったのか首を横に振り、逃げるようにその本屋を後にした。


「…何?」

No nameは首をかしげてその場に立ち尽くしていた。すると、先ほどまで男と話していた本屋の店主が、今度はNo nameの方へはたきを持って歩み寄り、言った。

「あんたも…買う気がないんならサッサと出ていってくれ」

「…あ、ごめんなさい…」

No nameは慌てて店主に謝罪の言葉を述べて、その本屋を後にした。いつもなら、仏頂面の店主に向かって文句の一つでも返してやろうかという気になるのだが、今日はそんな気にはならなかった。というよりも、先ほど本屋で見た男の姿が頭から離れなかったのである。
しかし、しばらく考えてもその男がなぜこんなにも気になるのかが理解できないNo nameは、やがて考えることを諦めた。そしてため息をひとつついて呟いた。

「…どうせもう二度と会うことはないんだもんね」




──そして、それから数週間が経過し、No nameは高校三年生として銀魂高校の校舎を見上げていた。

「この高校に通うのも…あと一年、かぁ…」

No nameがそう呟くと、突然後ろから肩を掴まれた。No nameがぎょっとして振り返ると、そこには志村妙が立っていた。

「そうよー!その最後の一年で、私たち同じクラスだなんて運命感じちゃうわよね」

「なんだ…お妙か…脅かさないでよ…」

No nameが深呼吸をひとつして落ち着いたその時、お妙の言葉が妙に引っかかった。

「…ん?ちょっと待って…。今…同じクラスって言った?」

「そうよ」

No nameの疑問にお妙はさも当然、と言ったように答えた。No nameは考えを巡らせ、やがて納得したように続けた。

「…あ、成程。お妙があの問題児だらけのクラスを晴れて卒業してこっちに来ることになったってことね?」

No nameがそう言うと、お妙がきょとんとした顔をして言った。

「何言ってるの?No nameがZ組の生徒になったのよ?」

「……え?」

No nameは一瞬お妙の言っていることが理解できなかった。

「なんで!?どうしてっ!?この高校って三年間クラス変わんないはずじゃ…」

「そんなこと言われても私が知るわけないじゃない」

「じ、じゃあお妙の見間違いってことも…」

「残念ながらそれはないわ」

そう言うと、お妙はNo nameの目の前に携帯電話を差出し、とある画面を開いて見せた。そこにはクラス替えの一覧表が映っている。

「これ…」

「今さっきそこに貼り出されてたのを写メったのよ」

「じゃあ本当に…私…」

No nameはへなへなとその場に座り込んだ。そんなNo nameを見かねたお妙がため息をついて言った。

「っていうかZ組の私が目の前にいるのに…その態度露骨すぎない?何がそんなに嫌なわけ?」

「嫌じゃないのよ、別に。ただ…噂の問題児だからけのクラスに私が馴染めるかどうかの心配をしているだけで…!」

「あら、私がいるから大丈夫よ」

No nameの言葉に、全く励みにならないような言葉をかけた。

「……」

「なに?私何か変なこと言った?」

「…なんでもない」

No nameは今目の前に立つ、このお妙という女はその清純な見た目とは裏腹に気に入らないことがあるとすぐに武力行使に出る冷酷さも兼ね備えているということを知っていた。
No nameはため息をついた。そして、お妙に半ば強制的に引っ張られるように3Zの教室に向かった。


*

手渡された名簿に目を通しながら、銀八はいちご牛乳を飲んでいた。その名簿には二年間受け持った生徒の名前がずらりと並んでいる。

「…へいへい…またこのメンバーね…」

問題児の巣窟とされているZ組を束ねることに関しての苦労と、はたまたそれを請け負うことのできるのは自分だけだという使命感と長年連れ添ったおなじみのメンバーに対する妙な信頼感から銀八はそんなことを呟いていた。
しばらくぼーっと名簿を眺めていると、銀八は妙な違和感を覚えた。そしてしばらく考えた末、その違和感が何なのかに気付いた。二年まで受け持っていた生徒の数より、一人増えているのだ。

「…見間違いか…?」

銀八は再び名簿に目を落としたが、見間違いではなかったようだ。確かに一人増えている。

「いったい誰が…」

銀八はゆっくりと出席番号の順番通りに目を通して行く。その途中である名前に銀八の目は吸い寄せられた。


─No nameNo name


そこには、そう書かれていたのだ。


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