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タイトル未決定
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「…えっ!?」

近藤の提案にNo nameは素っ頓狂な声をあげ、恐る恐る山崎の方を向いた。
すると、山崎もこちらの返答を伺うようにNo nameの瞳を見つめている。

「…俺は全然構いませんけど」

そんな二人を見て近藤が首を縦に振りながら言った。

「おう、んじゃ山崎。No nameちゃんのこと頼むわ」

「…頼むって…それ色々語弊がある言い方だと思うんですけど…ま、いいや…んじゃあNo nameさん、どうぞ」

山崎が自分の隣のスペースを少し空け、No nameにそこに座るように促した。

「あ…どうも…ありがとうございます」

しばらくしてNo nameが何を話そうか迷っていると、山崎がNo nameの近くにあったお猪口に酒を注ぎながら話しかけてきた。

「なんか、本当に人見知りなんだね、No nameさんって」

「えっ」

「さっきから一回も俺と目を合わせようとしないし、相変わらずちょっと挙動不審だしね」

「……」

山崎の指摘に思わずNo nameは黙ってしまった。人見知りのせいで山崎の顔が見られないのもあるが、それ以上にNo nameの中で何かが山崎の顔を直視することを妨げた。
しかし、そんなNo nameのことは何も気にならないようで、続けて話し始めた。

「それであのとっつぁんの姪っ子なんだから…俺としてはまだ信じられないわけだけど」

「……あ…それは…伯父さんは…私と直接血がつながってるわけじゃないので…」

「あれ?そうなの?」

「はい…私の母の姉が伯父さんの奥さんなんです」

「…あー、なるほどね。それなら納得かな。…いやでも、栗子ちゃんのいとこっていうのも驚きだけど」

「どうしてですか?」

「…俺の主観的な判断だから間違ってたら悪いけど…、No nameさんって恋愛に積極的なタイプじゃないでしょ。その点が栗子ちゃんとは大違いだから」

「…そうですね」

No nameの微妙な反応に山崎は申し訳なさそうに言った。

「…あ、ごめん。やっぱさっきの傷つけたかな、俺。…そういう意味で言ったんじゃないんだけどさ」

「あっ謝らないでください…!それに、そういうんじゃないんです。栗子が積極的なのは本当のことですし…私自身…そういう栗子に憧れてますからっ!」

想像したよりもずっと大きな声で否定したNo nameに驚いたのか、山崎は思わず黙り込んでしまった。No nameは、はっとして山崎に謝罪の言葉を述べた。

「…あ、ごめんなさい」

「あぁ、謝らなくていいよ。…ところで」

微妙な雰囲気を打開するように、山崎が新たな話題をNo nameに振ってきた。

「何ですか?」

「敬語で話さなくていいよ?俺とそんなに年変わらないんだしさ」

「えっ」

予想外の提案にNo nameは思わず山崎の顔を見つめた。すると山崎もNo nameの顔を見つめて言った。

「…No nameさんがそれでいいなら別にいいけど…どうも俺の方が調子狂うっていうか」

「…でも」

「何?」

「いいんですか…?」

「っていうか…否定する理由も別にないしさ」

そう言うと山崎はふっと笑って頬杖をつき、続けた。

「…それに、その方がNo nameさんの人見知り、少しでも緩和できるでしょ」

「……」

「あー…でも…ここまで言ってNo nameさんって呼ぶのもアレだし…名前なんて言ったっけ」

「…No name、です…」

「んじゃあ、呼び方もNo nameちゃんって呼んじゃおうかな?」

No nameの瞳には山崎の表情が以前にもましてとても魅力的に映った。自分の中で消えかかっていた感情が湧き上がってくるような気もした。

「…ってちょっと慣れ慣れしすぎたかな?」

何も言わないNo nameに山崎は心配したように苦笑しながら言った。

「……山崎さん…あの…」

「何……ぐへァッ!?

「え…っ!?」

突然山崎の頭に何かがぶつかったのか、山崎はその場に倒れこんだ。No nameは思わず、何かが飛んできた方へ視線を向けた。
そこには空になったビール瓶を片手に持った、相当泥酔した様子の土方が立っていた。

「おい山崎ィ!てめェ何飛び込みで参加した女口説いてんだァ!?」

「…副長…いきなりビール瓶投げるのやめてもらえます…?っていうか別に口説いてないですよ、話してだけだし。ていうかこの瓶…万が一No nameちゃんに当たったらどうするつもりだったんですか……って聞けやァアアアア!」

山崎が長々と文句をたれるように土方にそう言い返して見せたが、肝心の土方は話を聞かずに仲間内で再び呑みはじめていた。

「…なんなんだよ…全く……あ、No nameちゃん、大丈夫?二次被害被ってない?」

「だ…大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃいましたけど…」

飛んできたビール瓶をかろうじて避けたNo nameは散らかった皿を片づけながらそう答えた。

「男ばっかで飲んでると常にこんな感じだよ…ま、初めて来たんだからそりゃ驚くか…」

「はい…」

「…で、何の話だっけ?」

「え?」

「何か言いかけたよね?さっき」

「あ…えっと、そう呼んでもらっていいってことを伝えようと…」

No nameが山崎の顔を見つめてそう言うと山崎は再びNo nameに笑いかけてきた。

「オーケー。んじゃあそう呼ぶ。これでちょっとは打ち解けられるといいね」

そう話す山崎の笑顔から、No nameは目を逸らせなくなった。

「あれ?俺の顔に何かついてる?」

「あ…いや……」

山崎にまっすぐ見つめられNo nameはどう返していいか分からず、No nameは思わず俯いてしまった。
そして、何か言おうと頭をあげたその時、近藤の野太い声が部屋に響いた。

「えー宴もたけなわではありますがーそろそろ夜も更けてきたしお開きにするぞォ」

「…あ」

「へぇ…もうそんな時間経ってたんだ」

No nameは自分の腕時計に目を落とした。確かに、気がつけばこの宴会が開始して3時間近くが経過しようとしていた。

「…みたいですね」

「そういやNo nameちゃんどうやって帰るの?」

「心配しなくていいぞ、No nameちゃんは俺が送っていくことになってるから」

山崎の質問に、近くにいた近藤が代わりに答えた。

「って…近藤さん…お酒飲んだんじゃ…」

「もちろん、歩いてだよ。警察官が飲酒運転なんぞするわけないだろう?…まぁ酔いざましにもなるし…丁度いいかと思ってなァ」


近藤の意味不明な言い分にNo nameは答えず、山崎の方を見つめた。すると、山崎もこちらを見ていたのか視線が交わり、そして言った。

「まぁ…局長…ちょっと酔ってるみたいだけど…一人で帰るより安心できるんじゃない?」

「あ…うん」

「おーい!山崎ィ!ちょっとこっち来い」

「あ…っと。副長が呼んでる…んじゃそういうわけで、俺はここで」

「…あ…」

No nameは続きを言おうとしたが、続きの言葉が出てこなかった。それを予知していたかのように、山崎はくるりと振り返り、No nameの方を見つめて言った。


「…また会えるといいね、No nameちゃん」

「……」



No nameはしばらく山崎の背中を無言で見つめていた。そして、そんなNo nameの背中を近藤が意味ありげな視線で見つめていた。



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