連載

Each destiny is entangled.-守りたいもの-
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No nameはふいに机の上に並べてある一冊のアルバムを引っ張り出した。そのアルバムと同じように他の本やノートも並べてあるのだが、そのアルバムだけが妙に古めかしい。
何度も何度も開いた証拠である。

No nameはため息をつき最初のページからじっくり目を通していった。
別に意識しているわけではないのに、いつも同じページでふと手を止めてしまう。
そこには一枚の写真が挟んであった。幼いころのNo nameと、その隣にNo nameよりも頭一つ分背の低い男の子が見るからに嫌々そうな顔をしながら映っていた。

No nameは無意識にその写真に向かってつぶやいていた。

「…もう、遅いのかなぁ…総悟…」

その写真に写っている男の子、沖田総悟と出会ったのは十数年前に遡る。


*

「ねぇ総悟っ」

「……」

「総悟ってばっ!」

「……」

No nameの話を聞かず、総悟は無我夢中で竹刀を素振りしていた。その集中力故、No nameが声をかけているのにもまるで気が付いていないようだ。


「総悟っ!」

No nameが少し大きめの声を出して総悟に呼び掛けると、総悟はようやく気がついたかのように首を少し後ろに傾け、「…あぁ…No nameか…」と言った。

「あぁ…No nameか……って何よ、その微妙な反応!?」

「……」

No nameの答えに総悟は答えず、相変わらず夢中で竹刀を振り続けている。

「ちょっと!総悟っ!聞いてるの!?」

「…この素振り終えたら話聞いてやるから、ちょっと待ってろィ」

「…それって後でじゃダメなわけ?」

「今やんねェと忘れちまうかもしれねェだろ?」

「いいじゃない!別にっ」

「……」

No nameが必死にそう言い返しても総悟は聞く耳を持たず、もはや本人が数を数えているのかさえ疑問に思うくらい、素振りを続けている。
No nameは一旦声をかけるのをやめ、総悟が素振りをしている傍で三角座りをして待つことにした。
しかし、待てども待てども総悟が素振りを終える気配はない。No nameはしびれを切らして再び総悟に問いかけた。

「…ねぇ、いつまで続けるのー…」

「……」

「それを続けることでどういう意味があるって言うの!?」

「……」

No nameは答えずに竹刀だけを振り回す総悟を見ていい加減、腹が立ってきた。
意図的に無視しているのではないかと思うほど、No nameの声は総悟に届いていないのだ。

「…総悟のバカヤローーーッ!!!!」

No nameがそう叫ぶと同時に、涙腺も緩み悔しくて涙が出てくる。そこでようやく総悟がNo nameの声に気がついたのか竹刀を振る手を止め、「何でィ?」と言いながら振り返った。

「…やっと今日のノルマ終えたっつーのに…なんでこっち見てみりゃ泣いてんだよ…」

「あんたが私を無視するからでしょ!?」

「…無視したつもりはないんですけどねェ」

「じゃあなんで私の呼びかけに答えないわけ!?」

「…素振りしてて気付かなかったんでィ」

「嘘っ!絶対聞こえてたっ!」

「…あのなァ……」

総悟が諦めたようにため息をつくとNo nameが溜まっていたものを投げ捨てるように一気に総悟に言葉を吐き捨てた。

「もういいわよっ!…もう総悟になんか話しかけてやんないっ!宛てにしないっ!もう知らないっ!バカーッ!」

「あっ…おいっ……!」

総悟は泣きながら走るNo nameをあわてて追いかけた。

「うえーんっ!」

「待てって!」

「もう…っ!ほっといてっ」

しかし、泣きながら走っているせいか、視界が安定せずNo nameはしまいに地面の割れ目に引っかかり転んでしまう。
そんな様子を後ろから見ていた総悟は顔に手を当ててため息をついた。

「…勝手に逃げといて勝手にこけられてもなァ…」

「…だから、放っておいてって言ってるのに…!」

「意固地になるなって、ほら」

総悟は倒れたNo nameに手を差し出した。

「……何よっもうっ」

No nameは差し出された手に素直に従うと、総悟に引っ張り起こされた。並ぶとNo nameの方が総悟の頭一つ分大きいのに、今はずいぶん総悟が大人びて見えた。


「…ありがとう」

憎まれ口を叩きつつもNo nameは差し出された総悟の右手に素直に従い礼を述べた。

「…で?俺に聞いてほしい話って何でィ」

No nameの礼に対して総悟は答えず、No nameに聞き返した。

「…どうでもよくなっちゃった」

No nameはそう答えた。
これは本当の話である。そんなことよりも総悟が一生懸命に素振りする姿の方に関心が向いたのだ。


「…ふぅん」

No nameの答えになんだか意味ありげに総悟が答えた。


「…ねぇ」

しばらくの沈黙のあとNo nameが口を開いた。

「ん?」

「総悟はどうしてあんなに素振りを一生懸命にするの?」

「…どうしてって言われてもねィ」

「…竹刀なんて普段遊ぶのに使わないでしょ?」

「…守りたい人を守るため、ですかねェ」

「それでどうして竹刀なんかが必要になるわけ?」

「…己の力だけじゃ守り切れねェもんだってあるだろィ」

「ふーん」


*

気付けば一緒にいたので、総悟とはいつどこで出会ったのかNo nameには思い出せなかった。
しかし、総悟と過ごしてきた日々だけは鮮明にNo nameの記憶の中に刻まれているのだった。
当時は理解できなかったことも、今なら分かる気がした。


No nameは開いたアルバムに頭をうずめた。

─過ぎた時間は戻らない。
そんなことは分かってる。…だけど、今自分に突きつけられている現状はあまりにも酷すぎる。


「総悟……」


気がつけばNo nameは何度も総悟の名前を呼んでいた……



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