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「ちょっと!銀さんっ!何回言ったら分かるのっ!?服脱ぎ捨てたまま寝ないでって!羽織にしわいったらどうすんのっ」

「…ぎゃーぎゃー言うなよ…俺、今完全に二日酔いで気分悪ィんだからよォー」

No nameの声をさえぎるように銀時は布団を頭まですっぽりとかぶった。
こういう状態になった銀時は完全に話を聞く気がなくなっているということをNo nameは理解している。
そんな銀時の姿を見つめて大きくため息をつきながら、No nameは部屋の中の掃除を始めた。

それからしばらくして、No nameが居間の床に掃除機をかけているとパジャマ姿の銀時が髪の毛をもしゃもしゃと掻きむしり、あくびをしながら起きてきた。
No nameは掃除機の電源を一旦オフにして銀時に話しかけた。


「おはよ」

「…おー…」

「水飲む?」

「…あー…頼むわ…」


No nameがコップについだ水を銀時は一気に飲み干した。

「目、覚めた?」

「おー…おかげさまで」

そう言う銀時を見て、No nameはふとおかしくなり笑ってしまった。

「なぁに笑ってんのォ?」

「ううん…ただ…目覚めたのにその死んだ魚みたいな目は相変わらずなんだなぁと思って」

「それを言うなってェー…」

No nameの指摘に銀時は再び髪の毛を掻きむしってそう言った。
そしてそんなもやっとした気分を紛らわすかのように部屋を見渡した。


「…随分まぁきれいに片づけてくれたんだな」

「きれいにって…」

No nameもつられて部屋を見渡しながらため息をついてそう言った。


「…あのねぇ…この状態が世間一般で言う普通なんだけど」

「…No nameは俺がそのレベルを維持できると思ってんの?」

「…うん、聞いた私がバカだった」

当たり前のように胸を張って答える銀時にNo nameはしばらく考えるそぶりを見せて、やがて首を横に振り苦笑しながら答えた。そして、思い出したように続けて聞いた。


「…ていうか銀さん、前に私が来た時から掃除した?」

「まァ…数回?」

掃除した回数を思い出すように銀時は天を見つめている。

「…しょうがないなぁ…全くもう」


そんな銀時を見て、No nameが両手を腰に当て、大げさなため息をついた。

「つーか…しょうがなくね?俺、お前いねェと何もできねェし」

いつの間にか居間のソファに腰をかけていた銀時が隣に立っているNo nameを見上げて大真面目な顔をしながら言った。

「…さらっと何言ってくれてんのよ。…っていうか真顔で言うことかっ!」

「いたって真面目だよ、俺ァ」

「……」

「いいじゃねェの!まがりなりにもお前は俺の彼女なんだし」

「ちょっと…まがりなりにもって表現やめてよね!傷つくんだけどっ」

「あー…悪ィ悪ィ。No nameは俺のちゃんとした彼女だよ」

「…なんでそんな投げやり気味なのよ……」

「…まァ、なんつーか…付き合ってるって感覚がねェのも事実だったりするわけで」

そう言うと銀時は両手を頭の後ろで組み、ため息をついた。

「どうして?」

「…別にィ」

「……なんか銀さんふてくされてない?」

「ねェよ」

「…あ、そう…」


なんだか微妙な雰囲気になったのを解消させようと、No nameは掃除機を元の位置に戻し、持参したエプロンを身に付けた。
銀時への朝ごはんを作るためだ。No nameは無言でキッチンの方へ向かって歩き出した。
一度だけ銀時の方へ振り返ったが、こちらを見ようともしなかった。
No nameは銀時にばれないようにため息をついて再び歩き出した。こういうときは少しでも一人にしておくのが最善策であるということをNo nameは知っていた。


完成した朝食を机の上に並べると、待っていたかのように銀時が現れた。
すっかり落ち込んだ気分が吹き返したのか、死んだ魚のような目つきは相変わらずでも少し元気になったのが見て取れた。

「お待たせ」

「おっ、和食?」

机の上に並べられたご飯やお味噌汁、おひたしといったありきたりな料理を見つめて銀時が言った。

「…二日酔いの誰かさんに洋食は胃が重くなって大変かなぁと思って」

「ここに甘いものがあれば最高なんだけどなァ」

「だ・め・で・すっ!糖尿病寸前の通告受けてるの知ってんのに安易にそんなもの提供できませんっ」

「ケチ」

「好きなように言ってなさいっ!銀さんのためなんだから」

「へいへい……」

ぶつぶつと文句を口にしながらも、銀時は朝食に手をつけ始めた。
No nameはそんな銀時を少し見届けてから腕時計に目を落とした。

「…あっ!やばいっ…もう出ないと間に合わないやっ」

「何?どこ行くの?」

「仕事よ、仕事っ」

「仕事前なのに俺んとこ来たわけ?」

「まぁね。…銀さんの顔見たかったし」

「……!」

No nameはつけていたエプロンを外しながら言った。

「んじゃ、私行くけど…ちゃんと食べたらシンクに浸けて、お皿洗ってね!…あと、せっかく部屋綺麗に片づけたんだからこの状態少しでも保ってよ?一度に片づけるの大変なんだからっ」

「…何?じゃあ俺が毎日散らかしたら、その度に掃除しに来てくれんの?」


No nameは信じられないものを見るような顔をして銀時を見つめたが、銀時は大真面目な顔をしている。

「…銀さん…どっかに頭ぶつけたんじゃ……?」

No nameがおそるおそるそう言うと、一瞬真剣そうな顔をした銀時がすぐにおどけて言ってみせた。

「お前は俺のことをなんだと思ってんだよ!こーんなちゃらんぽらんな銀さんだって、彼女に毎日会いたいってわがままくらい言ってもいいでしょーがッ!」




(…もしかして銀さん、さっきふてくされて付き合ってる感じしないとか言ったの…私が仕事、仕事で思うように会えてないから…とか?)
(……)
(嘘、嘘っ!まさかそんなクサいこと言わないよね?)
(……)
(…まさか図星…?)
(悪いかよ……)



【おしまい】




((2012.06.02))

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