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「むー……」
No nameはソファに横になりながら買ってきた雑誌を熟読していた。
さて、この状態のまま何時間が経ったのだろうか。
時計の針が時を刻む音は耳に届いていたが、それがどのくらい進んでいたのかNo nameにはまるで興味がなかった。
…というよりも別件が頭の中を支配しており、それどころじゃなかったと言う方が正しいだろう。
─何よ…結野アナ、結野アナって……!
テレビの中の人に現を抜かすなんてバッカみたい!
先ほどの出来事を思い出すたびNo nameは頭が痛くなった。
朝の天気予報を見ていたとき、テレビ画面に映る結野アナに鼻の下をのばす銀時にNo nameはどうしようもない苛立ちを覚えた。気づけば、テレビの電源をオフにしていたのである。
「てっめー!何してんだコラァ!」
「あー…ごめん、なんか無性に腹立ったから思わず」
「思わず、じゃねェよ!リモコンよこせ!結野アナのお天気が終わっちまうッ」
「やーよっ!リモコンなしでなんとかすれば?」
「何?もしかしてNo name。妬いてるワケ?俺が結野アナに見とれてたから」
「…そんなくだらないことじゃないわよ。テレビの中の人間見て、鼻の下をのばすバカを見て悲しくなっただけ」
「ってお前…それ結局妬いてるのと変わらねェんじゃね?」
「うるさいうるさい!さっさと用意して仕事行け!バカッ」
「へいへい」
…そんなやり取りがあり、銀時が仕事へ出かけてからNo nameは本屋に向かった。そして、適当に最新刊コーナーに並べられた雑誌を一冊購入し万事屋に戻った。
─銀さんに言われたことが図星だったわけじゃない。…いや、図星だったのかもしれないけど、妬いてるなんて銀時の前で絶対に認めたくなかったのだ。
No nameはため息をついて、再び雑誌に目を落とした。
何気なしにページをめくっていると、先ほど問題になった結野アナが大々的に取り上げられており、紙面の真ん中で結野アナがにこやかにほほ笑みながらこちらを見つめていた。
そんな結野アナの笑顔を見てNo nameはなぜだかどうしようもなくイラついた。
結野アナに八つ当たりするのが筋違いだというのは分かっている。しかし、誰かに怒りをぶつけなきゃおさまらなかった。
「バカ」
No nameはそのままソファに顔をうずめた。
その時、突然No nameは誰かに頭をつかまれた。
「…えッ!?」
「まァだ拗ねてんのか?お前」
No nameがあわてて首を声の方へ向けるとそこには銀時が立っており、あきれたような声を出した。
「銀さん…っ!?」
「何、雑誌なんか読んじゃって…色気づくにゃまだ早ェんじゃねェの?」
「いいでしょ…!別に!私が何読んだって!っていうかガキ扱いしないでっ!私だって立派な大人よっ!大人っ」
「いやー俺からすれば、まだまだガキだなァ。たかがテレビの中の人に向かって熱い視線向けてるだけでこれだもんよォ」
銀時は明らかに今朝のことを言っている。
そしてNo nameが否定しながらも、実際突然怒った内容について理解しているのはその口ぶりから理解できた。
「なによ…人の気も知らないで」
「何が?」
「別にっ」
No nameがふてくされながらそう言うと、銀時はソファの背もたれにあごを乗せてNo nameを見下ろしながら言った。
「私はこんなに銀さんが好きなのに…銀さんは結野アナ、結野アナって!どうしてこんなに一方通行なんだろう…ってか?」
「………」
No nameは返答に窮した。
銀時が言ったその通りだったからだ。
「図星みてェだな」
「何よ…」
「ん?」
「分かってて…そんなこと言うのっ!?」
「…つーか、そんなことでいちいちキレんなよ」
「悪かったわねっ!わがままなガキ女でッ」
「…あ、いや…そこまでは言ってねェんだけど」
「…私、髪の毛ショートにしようかな…」
「何。藪から棒に」
「だって…銀さん、結野アナみたいな女の人がタイプなんでしょ…だったらその理想に少しでも近づきたいもん……」
No nameがそういうと、銀時はため息をついた。
「なんでため息…?」
「理想と現実は違うってこった。まァ確かに?結野アナは俺の憧れだけど?結野アナが結野アナだから憧れてんだよ」
「…どういう意味?」
「つまり、俺の理想に近づこうと無理やりNo nameが結野アナの姿を真似たところで結野アナにはなれねェってこった」
「分かんないっ!」
なだめるように言う銀時に向かって、No nameは大声を出して言った。
そこで銀時は再びため息をつき、徐々に核心に触れつつ話を進める。
「…だーかーらァ、No nameにはNo nameにしかねェいいとこいっぱいあるんだから…無理やり俺の理想に近づいて背伸びしようとすんな!俺はありのままのNo nameが一番いいんだよ」
「…え」
「バカでわがままで照れ屋でひねくれモンの天の邪鬼だけど、一生懸命でがんばりやなNo nameが一番っつーこった」
「…銀さん……」
「まぁ…そのなんだ…その方が…か、可愛いと俺も思うわけだし?」
“可愛い”という言葉を思いっきり言いにくそうにしながら、銀時は言った。
No nameはそんな銀時を見て噴き出した。
「…なに笑ってんだよ」
そんなNo nameを見て不機嫌そうに銀時は言った。
「無理やり言いたくない言葉言わなくてもいいよ、銀さん」
「…ガキに気遣いされるとは思わなかった」
「ちょ…!ガキって言わないでっ!」
「ガキにガキつって何が悪ぃんだ、コノヤロー」
「しっ…失礼ねっ!だから私だって十分大人だって言ってるじゃないっ」
「お前が大人だったらその辺歩いてる姉ちゃんはオバサン扱いしなきゃならなくなるだろーがッ」
「意味分かんないんだけどッ!」
…こうして、一件落着したかのように見えた二人の溝は、また違う形で開きつつあった。
ちなみに、この後二人の口げんかは1時間ちかく続いていたそうだ。
(素直にNo nameのいいとこほめた俺が間違いだった)
(いいとこなんて言ってるけど…悪いことの方が割合多いんですけど)
(バーカ。それも含めてNo nameっつー人間でしょーが。あれも評価の一環だよ)
(何それ………)
【おしまい】
((2012.04.26))