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「はぁ……」
No nameの深く長いため息が唇から漏れた。
*
「…私も連れてって!」
「駄目だ」
「…どうしてっ!?」
「お前を危険なところへ連れて行くわけにはいかねェよ」
「…私じゃ足手まといだってこと…?」
「そうじゃねェよ」
「じゃあなんで…っ!?」
No nameの震えた声を聞き、それまでNo nameに背中を向けていた高杉が振り返り突然、No nameの腕を引き自分の方へ引き寄せた。
「…分かってくれよ、お前を連れてってもしものことがあった時に、自分の感情を抑える自信がねェんだ」
高杉の言うもしものことが最悪の事態を指していることくらいNo nameの頭でも容易に理解できた。
「…心配すんじゃねェよ、すぐに戻ってきてやる」
「…晋助」
*
そんなことがあってから一カ月近く経っていた。その頃が晩秋だったのも今はもう完全に冬になっている。
─すぐ戻ってくるから、って言ったのに。
晋助だけではなく、また子も万斉も…誰一人帰ってくる気配すらしない。
No nameは再び溜息をついた。
「まさか…風邪なんか…引いてないよね?」
吹き付ける風が窓を揺らすたび、No nameの心には不安と心配が募っていく。
「やっぱ…耐えらんないよ…っ」
思い立ったように、突然No nameは部屋を飛び出した。
─早く帰ってきてよ、晋助……っ
自分が今ここで何をしようと、みんなが帰ってくるわけがないことくらいNo nameには分かっていた。しかし、ただ待ってることには限界を感じていた。
No nameがしばらく外で立っていると、突然鼻の上にひんやりとしたものが乗りかかった。
No nameが天を仰ぐと、次から次へと雪が舞い散ってくる。
「…雪…?」
No nameはふぅっと息を吐き出した。
その吐息が寒さを象徴するように真白である。
「………」
寒くて、寒くて。ただ寒い。それだけなのに…なぜかNo nameは無性に寂しさを感じていた。
─まさか、もう二度と帰ってこないなんてことないよね…?
そんな不安すら脳裏をかすめた。
「…ダメ、待つって決めたの」
しかし、そんな願いが簡単に叶うわけもなく時間だけが、ただただ過ぎて行く。
「…帰ってきて…晋助…みんな……」
理由がないのになぜか涙が出そうになる。
数秒─?
数分─?
数時間─?
もはやNo nameは時間の経過すらつかめなくなっていた。ただ分かるのは、時間が経つにつれ自分の体力が限界に近付きつつあることだけだった。
─これ以上待ってたら…さすがにやばいかな…
「…っ…寒いよ…」
No nameがそう呟いた時だった。突然、後ろから抱きしめられた。
「…まだ寒いか?」
「…え……っ!?」
「なんだァ?その腑抜けた反応はよォ?」
「だって…ほっ…本物…?」
「クックック…俺が偽物に見えるか?」
「…見えない」
No nameがそう言うと高杉がくしゃっとNo nameの頭をなでて言った。
「…んで?こんなとこで何してんだ?」
「……え」
「あァ…言わなくていい…どうせお前のことだから待ってたとか言うんだろうしな」
「だって…!…早く帰ってくるって言ったのに…帰りが遅いから…何かあったんじゃないかって…心配で心配で…!」
「…で、冷えるまで待ってたわけか」
「ずっと…待ってた」
「無茶すんじゃねェよ」
「…ごめんなさい」
「謝んじゃねェよ、別にそういうつもりで言ったわけじゃねェから」
「……」
「…戻るぞ、No name」
「うん……」
そして二人で歩きだそうとしたその時、突然No nameの身体がふわっと浮いた。
「…な、何…!?」
気付けば、No nameは高杉に横抱きされていた。
「ちょっと…晋助…っ、何して…っ」
「こうした方が、お前の体温が近くで感じられる」
恥ずかしむ様子などまるで見せずに、当たり前のように高杉は言った。
「…寒かったんだろ?なら、ちょうどよかったじゃねェか」
「いや…そうなんだけど……なんていうか」
「あ?」
「重い…よ?」
「……くだらねェこと心配してる暇あんだったら、俺の首に手ェまわしてしっかり掴まっとけ」
「……」
高杉のその言葉を聞いて、ほとんど無意識でNo nameは高杉の右頬にかすかに触れるくらいのキスをした。
「何してんだ」
「…つい」
「先手打つんじゃねェよ」
「え…、それどういう意味……」
すると高杉は意地悪そうに微笑んでNo nameの唇を自分の唇でふさいだ。
(ずるい)
(…何がだ)
(私なんて頬に触れるくらいのキスしかしてないのに)
(だからその倍にして返してやったんだろ)
【おしまい】
((2012.04.19))