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「ねー…No nameちゃーん!一生のお願い!」

「い・や・よ!たとえ銀さんでも…何回頼まれても断るッ」

「つーか。何がそんなに嫌なわけ?そういう願望は男全員が持ってると思うんですけどォー…」

「何がって…こう…気持ち悪いし、…試したことないし……あと恥ずかしいッッ」

「だぁーから、試したことないんだったら試してみようって!恥ずかしいっつうのも…見られるのが俺でもなわけェ?」


ある日の午後。
万事屋でのできごと。
いつもいる神楽と新八は買い物に出掛けていて留守である。
そんな言い争いはひょんなことから始まった。


*

「そういやNo nameっていつもズボン履いてるよなァ」

「そうだけど…何よ、いきなり」

「んー別に?ただなんつーか、たまにはスカート姿も見てみたいと思っただけ」

「嫌」

「……いやあのさ…否定するにしろ、もーちょいかわいくできない?」

「かわいい、なんて似合わない形容詞…とっくの昔に捨ててきたんだけど」

「なんでウチには男勝りな女しかいねェんだよォ…たまには癒しも欲しいよー銀さん」


そう言うと銀時は机に突っ伏した。

「私に頼むこと自体間違えてるから…じゃあ、お妙さんか猿飛さんにでも頼んだら?猿飛さんなんて喜んで着てくれるんじゃないの」

「バカか、あんなのに頼んだらまた変な勘違い起こすだろうが!」

「なんで逆ギレ!?意味分かんないんだけど」

「意味が分からないのはてめェだ!俺の意思汲んでくれたっていいんじゃねェの?」

「はぁ?」

「誰のスカート姿でもいいわけないでしょーが!No nameだから…こうそそるもんが……」

「黙れ!この変態ッ」


*

こんなやり取りがしばらく続き話はようやく冒頭に舞い戻る。

「頼む!No name!一回でいいから!」

「だからァ、嫌よっ!そんな似合わないもの、好き好んで着たくないッ」

「似合わないって誰が決めたんだよォー、んなのわかんねェじゃん…つーか絶対似合うって!No name。俺が保証すっから!」

「銀さんに保証してもらって、はいそーですか!って着ると思ってんの!?」

「…ケチ」

「ふてくされても嫌なもんは嫌だからっ」


No nameはそれ以上、その話をしてくないのだと言うように居間を出て行った。
そんなNo nameの後ろ姿を目線で追っていた銀時は溜息をつきながら言った。

「なぁーんであんな強情なんだろうなァ…ったくよォー…」

銀時は自身の右手で顔を覆った。


「そんなんじゃ、銀さん強行手段に出ちゃうからね?」


*

それからしばらくたったある日のこと。
No nameがいつものように万事屋へやってくると、銀時に強引に腕を掴まれ外に連れ出された。

「え…ちょっと…ぎ、銀さん…!?何、どこ行くの?」

「いーから、ついてこい」

「仕事?」

「違ェよ。仕事は新八と神楽だけで十分事足りそうだったから任せてきた」

「じゃあどこ行くっていうの?」

「いーから、ついてこいつってんだろ?大丈夫、変なとこにゃ行かねェから」

「……?」


銀時の言う意味が分からず、No nameは言われるがままその場所へ連れてこられた。

「はい、着いたー」

No nameがその建物の中に入ると、そこはいかにも女の子女の子した異様な雰囲気を放っている。
銀時はたくさんある店の中から適当に一つを選び、中へ入って行った。


「…何、銀さん……ついにそういう趣味に目覚めたわけ…?」

No nameは銀時を追いかけながら、銀時の背中に向かって嫌味をこめて銀時に吐き捨てると、銀時は右手でNo nameの額を小突いてきた。

「バーカ。そこまで末期じゃありません!No nameのためだよ」

「はァ?なんで?」

No nameは素っ頓狂な声をあげた。
すると、その反応を待っていたかのように銀時は言葉を返した。

「今日はここでNo nameに好きなの一着買ってやるから、それ着て俺とデートしようぜ?」

「……」

銀時の言葉を聞いてもNo nameはまるで意味が理解できなかった。

「…何、さっぱり意味わかんないんだけど」

「意味は理解しなくていーから!はい、好きなの選んで!……あ、言い忘れてたけどスカート限定な。俺もデート行くのにズボン履くような女連れて歩きたくねェし」

銀時の言葉を聞いてNo nameは合点したような顔をして銀時を睨みつけた。


「そうまでして私にスカート履かせたいわけ…?嫌だっつってんのに」

「No nameが俺の言うこと聞かないからでしょー…あ!姉ちゃん!とりあえずこれとこれとこれ、こいつに着せて」

「はっ!?ちょ…!」

「かしこまりましたー♪」

No nameの言葉を無視して店員も強引に試着室の前まで引っ張って行った。
店員まで巻き込んだ以上、その場から逃げることなどNo nameには出来なくなった。

自分勝手に行動する銀時にいらだちを覚えながらも渋々渡された服に手を通した。

─あんの銀髪、帰ったらボコボコにしてやる……!


*


しばらしてNo nameがあたりをおろおろと確認しながら試着室から視線をのぞかせた。
銀時は待っていたかのようにためらいなく試着室のカーテンを引いた。

「どんなもんよ?」


「…あんま凝視しないで。恥ずかしい」

そこには、先ほどの雰囲気とは一変したNo nameが立っていた。

「…似合ってんじゃねェの」

─似合う。
そんなことは分かっていた。
しかし、今銀時の目の前にいるNo nameはそんな想像のレベルをはるかに超えている。


「嘘」

「嘘なんか言わねェよ」

「だって!こんな男みたいなやつがスカートなんか似合うわけないじゃない」

「それはNo nameが勝手に思い込んでるだけでしょーが、今のお前の姿見て似合わないなんて思う奴いねェよ」

その言葉は銀時の口から自然とあふれ出た言葉だった。言った瞬間、焦ったようにNo nameから少し視線をそらした。

そんな銀時の様子を見て、No nameも自然と顔が赤く染まっていった。


「…銀さん…」

「…要するにあれだ、もっと自分に自信持てよっつーことだよ」

「……なんかうまく言いくるめられてムカツクんだけど」

「…お前、今せっかくかわいい女なんだからそーいうのやめろ、げんなりするじゃねェの」

「らしくない」

「俺ァ、今のお前のが好み」

「…別に銀さんの好みの女じゃなくていい」

「…素直じゃねェの」

「でも」

「ん?」

「…たまにはこういうのありかもね」


そう言いながら、No nameは冗談っぽく笑った。そんなNo nameの表情を見て銀時はNo nameの手を引くと、無防備だった彼女の身体がぐっと銀時に引き寄せられた。

「…な、なに…!?」


No nameが次に何かを言おうとするのを防ぐかのように、銀時はNo nameの唇を自分の唇でふさいだ。



(な、何すんのよ…っ!いきなりっ)
(…俺を惚れさせたNo nameが悪いよねェ、こりゃどう考えても)
(理由になってないっ!つーか店のど真ん中で何してくれてんのよ)
(何、怒ってんの)
(当たり前でしょッ!これから堂堂と街ん中歩けないッ)
(そりゃ逆に俺にとっては好都合だったりするんだけどな)
(なんで?)
(No nameの姿を独り占めできんだろ?)




【おしまい】








((2012.04.05))

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