text

25
1ページ/1ページ

「はーい、んじゃァー今回の定期テスト範囲はここまでー」

いつものように気だるそうに首を左右に振りながら銀八が言った。

「せんせー!テスト範囲が広すぎまーす」


ここぞとばかり手を挙げた近藤が銀八に向かってそう言った。

「はいお前黙れー、どーせまともに勉強しねェやつがテスト範囲の多さに文句なんてつけんじゃねェ」

近藤の言葉を銀八はぴしゃりと一蹴した。
そんな銀八と近藤のやり取りを横目で見ながらNo nameは銀八が言ったテスト範囲を手帳に書き込み、何気なしに溜息をついた。


「どうしたんだ?溜息なんかついて」


No nameの隣の席に座る土方十四郎が声をかけてきた。

「あ…土方くん……なんていうか、またテスト期間っていう憂鬱な時期に突入するんだと思ったら途端にやる気が失せてきちゃっただけ」

「あァ。…んなことか」

No nameの返答を聞いて土方がつまらなさそうに頬杖をついて前を向いた。

「…なんでそんなどうでもよさそうなわけ?」

「テストごときで俺の力は推し量れねェからなァ。…つーか興味ねェし」

「興味ないって…っていうか何その中二病みたいな言い訳」

No nameはそれ以上何かを言い返そうとしたが言葉が見つからず、机に突っ伏し、言った。

「あーぁ…土方くんに真面目に答えた私がバカみたいじゃない!」

「……」

しばらくそうして突っ伏していると、土方は何も発言しなかった。
ふとNo nameが頭だけを土方の方へ傾けるとNo nameを見ていた土方との視線が交わった。
突然のことだったので、No nameは驚いて土方とは逆の方向に頭を向けた。

─…なんでこっちをガン見してるわけ……?

そんなNo nameに突然銀八の野次が飛んできた。

「おーい、No name。俺ァ、テスト範囲は発表したが授業を終わるとは一言も言ってねェぞー?授業中寝んじゃねェよ」

「…あ、すいません……」

そう言いながら、No nameはむくっと起き上がった。土方のほうへ視線を向けようとしたがその寸前でそれを止めた。
というより妙に土方の存在を意識してしまい、見ることができなかった。

「はーい、じゃあ授業続けんぞー」

No nameに中止した後、銀八は仕切り直し授業を再開しようとしたその時だった。


「せんせー」

土方が右手を挙げて銀八に声をかけた。

「どうしたァ、土方ー?」

「教科書持ってくんの忘れましたァー」

「なんでおめェーそれを今言うんだよ、バカかー、まぁ今回は仕方ねェからNo nameに見せてもらえー」

「はァっ!?」

銀八の予想外の提案にNo nameは思わず素の表情で呟いていた。

「…つーわけだ、よろしくな、No name」


No nameが返事をし終える前に土方は自分からNo nameの机に自分の机をくっつけてきた。
その様子を確認した銀八は何事もなかったかのように授業を再開した。それを見てNo nameは諦めたように机と机の境目に自分の教科書を置いた。

それから数分が経った。
No nameは極力土方を意識しないように、できるだけ前を向いていた。
すると突然、No nameの右手に何かが乗る感触がした。
No nameが手元に視線を向けると、ルーズリーフの端がNo nameの手にかかっている。よく見ると、そこにはおよそきれいとは言えないような字で文が書いてある。


『なんで視線そらすんだよ』

「…なッ…!?」

そこに書かれた予想外の内容に驚いたNo nameは自分が想像していた声よりもずっと大きな声を出していた。


「おーい、No name。お前、今日2回目だぞ、注意されんのー何回言わすんだ?次、言わせたら廊下だからなァ」


そんなNo nameの様子を見て銀八は間髪いれず注意した。

「あ…すいません……」

銀八と周りにわびるのと同時にNo nameは土方をきっと睨みつけた。
しかし、土方は平然とした表情をして、さきほどの文に続きを書きだした。


『バーカ、素でリアクションするヤツがいるか』

No nameもその返事を負けじと紙に書き込んだ。

『土方くんが変なこと言うからでしょ!…土方くんのせいで怒られちゃうし……ていうか無視したつもりないしっ』

『ふぅん?でも俺が見てたの分かってたんだろ』

『分かってたらその視線に応えて見つめ返さないといけないなんてルールないでしょっ?』

『そりゃそーだ…』

『っていうか、テスト範囲多くてただでさえ困惑してんのに!邪魔しないで!』

『邪魔した覚えはねェよ、ただ気になった疑問をぶつけただけ』

『よくもまぁそんな屁理屈たたけるわね…』

『…つーか、テストくらいでなんでそんな必死になってんだよ』

『必死にもなるよ…成績に関わるんだし。でもテストそのものの心配よりもやる気が出ないから困ってるのよ』

『やる気ねェ……』


そこで一旦筆談は終了した。
というよりもNo nameが返事を書くのをやめたのだ。なんて書いていいかが分からなかったからである。
気持ちを切り替え、授業に集中することにした。

それからまたしばらくして、No nameが銀八が黒板に書いていた内容をノートに取っていると、そこに土方の手が伸びてきた。

「…な…っに?」


土方は走り書きのようなものを残して、そのまま睡眠時間へと突入した。

「…なんなのよ、いきなり……」

No nameが土方の書いたほうへ視線を寄せるとそこには先ほどよりも汚い字で、こう書いてあった。


『ま、頑張れよ。終わったらどっか連れてってやるから』

No nameは土方が書いた内容がしばらくの間素直に理解することができず、何度もその文章を目で追った。
そしてようやく理解できたところで土方に視線を向けたが、うつぶせる体制になっておりNo nameの質問に答えるそぶりを見せる気配がない。


─いったい何考えてんのよ…この男。


結局、土方が書いたことの本心を聞かないまま授業が終了した。
それと同時に土方を捕まえようとしたが、土方に先手を打たれ、No nameの手を掴み耳元でそっと呟いた。


「行きたいとこ考えとけよ」

「なんで…」

「テスト終わった後に何か褒美、あった方がやる気でんだろ?」

「だから…!私が言いたいのはそれをなんで土方くんが……」

「不満か?」

「いや…不満とかそういうんじゃなくて」

「んじゃ余計な詮索すんな、俺のモチベーションが下がる」

「モチベーションて…」

「んじゃ楽しみに待ってら」


そこで土方は強引に話を切り、いつもつるんでいる沖田と近藤の方へ向って歩いて行った。

「あ…ちょっと…!」


─……なんなのよ、もう…。


No nameは意味が分からないという風に土方の背中を視線で追った。


(土方さん、誘うんだったらちゃーんと誘ってやんねェとあの女鈍いですぜィ)
(お…!ついに行動に移したか!トシ!さっさとモノにしてしまえ!)
(…お前らなんでんなこと知ってんだよ)
(授業中幸せそうな顔して筆談してたじゃねェですかィ)
(あァ。二人だけの世界って感じだったな)
(あれで気付かない方がバカですぜィ)
(…全くだ。まァー当の本人は気付いてないみたいだがな)



【おしまい】



((2012.04.07))

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ