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「…あ、もうこんな時間なんだ…」


日が沈み、いよいよ本格的な夜が始まろうとしていた。気温も下がり、吐く息が白い。


「もう秋だから、日がだんだん早くなってるのね。気づかなかった」

「そろそろ帰りやすかィ?」

「…そうだね、あんまり遅くなると怒られちゃうし」

No nameは腕に付けた時計を見ながらそう言った。

「分かりやした。んじゃ送って行きまさァ」

「ううん、いいよ。だって屯所と私の家じゃ帰る方向逆でしょ?わざわざ送ってもらうの申し訳ないから」

「…」


そう言って手を振るNo nameを沖田はじっと見つめた。


「もしかして心配してる?だーいじょうぶよ!ここから家近いの総悟だって知ってるでしょ?」

「そりゃそうなんですけどねィ」


沖田は変わらず黙ったままNo nameの大きな瞳を見つめていると、No nameが冗談っぽく続けた。


「…まさか、総悟。離れたくないなーんてベタなこと言ったりしないよね?」

「……」

「嘘、嘘!そんな怖い顔しないでよ!冗談だよ…だってそんなの総悟らしくない……」

No nameがそう言おうとした時、突然沖田がNo nameの腕をぎゅっと掴んだ。


「…な、何っ!?」

「…なんでェ、俺が離れたくないって思っちゃいけねェんですかィ?」

「……え…っ」

総悟の言葉にNo nameは目を見開いた。
すると沖田はしばらく間をおいて面白そうにふきだした。


「……。…嘘でさァ。俺をからかったお返しでさァ」

「…もうっ!総悟ってば……じゃあね!また連絡するね」


そう言ってNo nameは手を振りその場をあとにした。
沖田はNo nameの影が見えなくなってから反対方向に歩きだした。

*

「おはよっ!ごめんね、待った?」

「言うほど待ってやせんぜ」

「よかった!待たせちゃったらどうしようかと思ったの」

「…何かあったんですかィ」

「うん。ちょっと…そのわけはまたあとでね!」

「…ん?」

「ね、それより最近できたお店行こうよ!」


特別行く場所を決めていなかった沖田はNo nameに押され、買い物に付き合うことにした。
そして一通りの買い物を終え、二人でお昼を食べていた時、突然No nameから話を切り出した。


「ね、総悟」

「何ですかィ」

「はい、これ」

No nameは綺麗にラッピングされた少し大きめの袋を沖田に手渡した。


「なんですかィ、これ」

「実はね…結構前から…毎日悪戦苦闘しながらちょっとずつ編んで…昨日やっと完成したんだよ」

「マフラー?」

沖田は中身を取り出してそう呟いた。

「うん!結構うまくできてるでしょ」

「なるほどねィ…これ編んでたせいで寝坊したってわけですかィ」

「当たり。…本当は寝坊しないように頑張ったんだけど…朝弱いからさぁ…私」

「っていうかこれ、一から全部No nameが作ったんですかィ?」

「そうだよ!……気に入らなかった?」


心配そうにNo nameは沖田の顔を見つめた。しばらく黙っていた沖田が目線をずらして答えた。


「いや…なんつーか…びっくりしたっていうのが本音ですかねェ」

「…使ってくれる…?」

「もちろんでさァ」

「よかった!ありがとう!」


*

─家までの帰り道。

夏が完全に終わり、秋が近付いているようでもうすでに少し肌寒く感じる。
沖田はNo nameにもらったばかりのマフラーを巻いて屯所を目指して歩いていた。
昼間にもらったばかりのマフラーにはかすかにNo nameの匂いが残っているような気がした。

「……」

─さっきまで会ってたじゃねェかよィ

No nameの香りを身近に感じて沖田は無性にNo nameに会いたくなったのだ。

さっきNo nameに言われた時、平静を装ったつもりだったが正直なところ図星だった。
ただ、面と向かってNo nameに離れたくないなんて言えるはずもなく、あんなふうに誤魔化した。

沖田はマフラーを見つめ、気持ちを紛らそうと黙々と歩くが、考えないようにすればするほどかえって会いたい気持ちが大きくなってしまう。


…気づけば、沖田の足は今歩いてきた方向へ戻っていた。


*


「No name」

沖田は力いっぱい走り、家に入ろうとする寸前のNo nameを呼びとめた。


「あれ……総悟……?……こんなとこで何して……!?」


驚くNo nameの言葉をさえぎり沖田はNo nameをぎゅっと抱きしめた。


「え、何!?どうしたの…っ!?」

「…さっきのやっぱ撤回しまさァ」

「…なんの話…っ!?」

「…離れたくねェって話でさァ」

「…ね、熱でもあるんじゃないの…?総悟がそんなこと言うなんて」

「…人が素直になった時くらい、真面目に話聞いてくだせェ」

「…ごめん」

「……なんかこのマフラー付けてたら無性にNo nameを身近に感じたくなったんでさァ」

「で、わざわざ追いかけてきたの…?」

「そうでさァ」

「…バカだね」

「…なんででしょうねィ」

「分かんない…でも、嬉しいよ」


No nameははにかみながらそう言った。
沖田はそれを聞きNo nameの耳元で囁いた。

「俺がバカになれんのは相手がNo nameだからでさァ」

「……!」

No nameは総悟のその言葉を聞いて耳まで真っ赤に染まった。

「…悔しいなぁもう」

「何がですかィ」

「…だって、いちいちかっこいいんだもん…私にも好きくらい言わせて」

「…そんなもん、飽きるほど聞いてやりまさァ…」


(好き)
(ん)
(え、なんでそんな微妙な反応…)
(…好きより愛してるって言ってくだせェ)
(…それはハードル高い……)



【おしまい】





((2012.03.29))

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