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「んじゃ、あとのこと頼むわ」

「うん、分かった!気をつけて行ってらっしゃい」

「おう」


そう話したのが今朝のこと。
銀時の仕事がないときはいつも万時屋におり、ぐうたらな生活を送っているのだが、仕事が入るとこうして早朝からでかけて行くことも少なくはない。
家政婦のような立場で万時屋に勤めているNo nameは、万時屋本来の仕事に同行させてもらったことがない。
…というより、ついていこうとすると銀時に怒られるのだ。

「バッカ!No nameを危険な仕事に巻き込むわけにはいかねェだろ!?」

という風に。

……そういうわけで、こういう日は銀時たちが万時屋に帰ってくるまで一人の時間を過ごしていた。

*

掃除に洗濯、いつも通りの家事作業を終えソファでくつろいでいた時、No nameは何気なしに窓の外に目をやった。


「…なんか、暗いなぁ」

壁にかかった時計を見るとまだお昼の3時を過ぎたところだった。

「…これは一雨来るかも…」


灰色の分厚い雲が太陽の光をさえぎっている。No nameが暗く感じたのはそのせいだった。
洗濯ものが雨でぬれないようにあわてて取り込み、部屋の窓も閉め切った。


「そういえば銀さんたち…ちゃんと傘持ってったのかな」

No nameの脳裏に銀色の天然パーマ男が浮かんできた。
そして同時になぜかとてつもない虚無感に襲われる。…寂しいと言っていいかもしれない。


「早く帰ってきて…銀さん……」

No nameがソファの上で三角座りをし、膝に自分の顔をうずめたその時だった。
部屋中の電気が一斉に消えたのだ。


「…え……っ?…なに…?」

No nameが顔をあげると、間髪いれずに窓に吹き付ける雨音と轟音が響いてきた。
停電したせいで部屋中が一瞬にして闇へと化した。

「…か、雷…っ?」

めったに見ない雷にNo nameは恐ろしいほどの恐怖を覚え、無意識のうちに手足が震えてくる。それをなんとか抑えようとぎゅっと自分の手で足を抱きしめるが、一向に収まらない。それどころか、こらえきれなくなって涙まであふれる。


─こんな時だからこそ余計に銀さんに会いたい。今、どこにいるんだろう……
─一刻も早く会いたい。


そんな思いがNo nameの頭に浮かんできたその瞬間。

No nameの身体にぬくもりが伝わってくる。そしてそれと同時にNo nameが一番求めていた声が耳に届いた。


「怖がんなって。俺が側にいるから」

「…ぎ…銀…さん…?どうして…」

夢かと思った。

「何?俺に会いたかったんじゃないの?」

「…え」

銀時は冗談っぽく笑いながらそう言っているのが暗闇の中で伝わってきた。

「…焦んな、冗談だよ。…そんな気がしたんだけ」

「……」


それからどれくらいの時間がたったのかは分からなかったが、電気が復活すると同時に銀時はゆっくりとNo nameから離れた。

「ちょっとは落ち着いた?」

「お…落ち着いた……でもどうして…」

「別に?…さっきの雷でNo nameがおびえてんじゃねェかと思っただけよ…で?帰ってきたら案の定震えてんだもんな……こういう時こそ俺の出番でしょうが」

「……」

「…で、どうしたもんかと考えてたら、身体が勝手に動いてた……」

そう話す銀時にNo nameは耐えきれなくなって抱きつき、思わず呟いていた。


「銀さん…!大好き……っ」


あまりに突然のことで何が起こったのか分からないというように銀時はきょとんとした表情をする。



「どした?いきなり…つーか……」

銀時は優しくNo nameを引き離し、自分の右手でNo nameの額を小突いた。


「んなもん…わざわざ言われなくても分かってる」

「だって…!銀さん…もう帰ってこないかもしれないって思って……もう会えないんじゃないかって」

「たかが雷くらいでかよ?…考えすぎだって」

No nameの言葉を聞いて銀時は苦笑しながら言った。

「本当に怖かったんだもん…っ……でも銀さんが側にいてくれたからもう平気…!」

「ならいいんだけどな」

「それにしても…」

「ん?」

「帰ってきてくれて本当によかった…銀さんがいないとこんなに不安になるなんて思わなかった…」

「なんだよ…やけに今日は素直だな」

「だって私、銀さんが大好きだもん…好きじゃ足りないくらい大好き…銀さんが近くにいるだけでこんなに幸せだもん……だからその気持ちを伝えないと気が済まないよ」


No nameがまっすぐ銀時の目をとらえてそう言った。
するとそんなNo nameの気持ちに応えるように銀時もまっすぐにNo nameを見つめて、そして優しい表情をしながら言った。

「…さっきも言ったろ」

「…?」

「そんなこと言われなくても分かってる。つーかお前、俺がいねェと生きてけねーだろ」

「……」

「それは俺も同じ。好きで好きでたまんねェから…頼まれたって離してやんねェよ…分かった?」

「…うん……!」


そういうと今度は銀時からNo nameを抱きしめた。



(そういえば新八くんたちは?)
(志村家で雨宿りしてらァ…あの様子じゃしばらく帰ってこねェんじゃねーの?)
(え)
(何)
(ってことはそれまで銀さんと二人きり?)
(…何…不満なの?)



【おしまい】







((2012.03.22))

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