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「おはよー!」

No nameは勢いよく扉を開けた。

「…あ、No nameさん。おはようございます」

「おはよー!No name」

「…あれ?銀さん、いないの?」

「あー…銀さんならさっき用事あるとかで出掛けちゃいましたよ?」

「うっそー!?すれ違いっ?…最悪っ!…まぁいいや!」


No nameは鞄から取り出したファミリーパックのチョコを新八と神楽に差し出した。

「はい、これ!今日バレンタインだから、受け取って!」

「えッ!?いいんですか?」

「おぉー!やったネ!」

「っていうか手作りじゃないんですね…いかにも義理丸出しっていうか」

「文句言うならあたしが代わりに食べてもいいのよ?新八くん」

そう言うとNo nameは袋の中から一つだけつまみだし、個包装された袋を少しだけ破いた。


「あああああああ!冗談ですよ、冗談!い、いただきますっ!」

「…分かればよろしい」


そう言いながらNo nameはその破りかけのチョコを自分のポケットに放り込んだ。


「あ、言うの忘れてたけど、全部食べないでねっ!銀さんの分も入ってるんだから!」

「…No nameさん、それ言っても無駄だと…」

「え、…なんで……って!神楽ァアアアア!」


No nameがふと神楽の方に目をやると、すでに彼女の口の中にNo nameが持ってきたチョコが消えており、満足そうに自分の腹をなでていた。

「ふゥ〜…うまかったネ!ごちそうさまアル」

「…は、は…はは…」

当然と言えば当然の結果だが、改めて神楽の食欲に感服しながらNo nameはため息をついた。

「…ま、いいわ。これ想定してなかった私も悪いし…」


そう言いながらNo nameは脱ぎかけた上着に再び手を通した。

「あれ?No nameさん、どこか行くんですか?」

「買い足しよ、買い足し!新八もほとんど食べてないんでしょ?じゃ、行ってくるね」


*

「しっかし…神楽の食欲にはほんと…参るよ……」


─せっかくさりげなく銀さんにチョコ渡すいい作戦だと思ったのになぁ……


No nameがとぼとぼ歩いていると、前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。

「…あ、銀さ…「ぎ〜んさ〜〜〜〜ん!」」


No nameが声をかけようとしたその時、別方向から大声で銀時を呼び止める声がした。
No nameも声の方を見ると、メガネをかけた長髪の女がいた。

「…あぁ」

銀時がその女に微妙な反応をしつつも振り返った。
二人が会話する様子をNo nameはとっさに隠れた物陰から見守る。

─あの人も銀さんにチョコあげるのかなぁ……

そっと顔をのぞかせると、偶然にも銀時と目線が交わる。


「…や、やばッ」

No nameは即座に身を引いた。

─な、なんで隠れてるの私ッ

しばらくそこに隠れていると突然後ろから声をかけられる。

「…お前、そんなとこで何やってんだ?」

「げッ…ぎ、銀さんッッ!?」

「さっきここから見てた時目合っただろ?なんで隠れてんだよ」

「いや…あの、なんていうか……じゃ、私はこれでっ…!」

「……はァ?」


No nameはわけもわからず、その場を飛び出した。


*

「ただいまー…」

「あ、お帰り!No nameさん……あれ、チョコは…?」

手ぶらのNo nameを見た新八が目ざとく指摘する。

「あー…ごめん、買えなかったんだ…」

「…そうなんですか。残念。あ、そんなことより…さっき姉上がここに来たんですけど」

「へぇ、お妙さんが?どうしたの?」

「今晩、僕の家でみんなでお鍋やりましょうっていう提案ですね」

「最近また寒くなってきたからいいかもね!」

「ですよね。あ、でですね…姉上に買い物頼まれちゃって…どうせ今日は仕事もないだろうし、神楽ちゃんとこれから行ってこようと思って」

「そのまま私たちは姉御の家に行くアル!だからNo nameは銀ちゃんが帰ってきたら新八ん家に集合するアル!」

「……え」

「どうかしました?」

「あ、ううん…なんでも…」

「そうですか。じゃあさっそく行ってくるんで後はよろしくお願いしますね!」

「わ、わかった」


そして新八と神楽は万事屋を後にした。
その途端にNo nameの鼓動が速くなる。

─さっきのこれって結構やばいよね…銀さんになんて言い訳しよう……

No nameが考えていると、最悪のタイミングで銀時が帰ってきた。

「帰ったぞォー」

「…あ、…お帰り…なさい……」

「……おう。あれ?新八と神楽は?」

No nameのガチガチの言葉に銀時も若干気まずそうに返事した。

「あ…なんか、新八の家でお鍋するっていうんで買い出し頼まれたみたいで…」

「鍋ねェ…」

「わ、私は銀さんが帰ってきたら一緒に志村家に行くように新八に言われて…」

「そうなの?んだよ…せっかく帰ってきたとこなのに、面倒くせェ…ま、ただ飯にありつけるならかまやしねェか」

「……」

No nameの気のせいか、銀時の言葉の所々がよそよそしく感じられる。
そんな銀時の態度に少し傷つきながら、No nameは無意識にポケットに手を入れた。
すると見覚えのない感触がした。No nameはそれを手に取りだしてみた。


「…あ、これ……」

それは先ほど新八と神楽にチョコをあげた時に自分でポケットにいれたものだった。


「…ん?何」

銀時はNo nameの方に振り返った。

「あ、…な、なんでもない…っ!」

No nameはあわてて手に持っていたチョコを隠した。

「…お前、今何か隠したろ。なんだよ、それ」

「あ…こ、これは別になんでもなくて…」

「なんでもないなら出せるだろ?」

そう言いながら銀時が徐々にNo nameの方へ近寄ってくる。

「な、なんでもないんだってぇえええー!」


─あんな美人にチョコもらってたのに私なんかのを受け取ってもらえるわけがないじゃない!

完全にチョコに気を取られていたNo nameは足元に不注意でソファに引っかかりそのままソファに倒れこんだ。
その衝撃でチョコが吹っ飛んだ。


「……あ」

「なんだ、これ…」

銀時がその吹っ飛んだチョコを拾い上げた。
No nameは無我夢中で銀時が拾い上げたチョコを横から奪った。


「…ただのまとめ買いしたやっすいチョコだから…ッ!その…銀さんじゃ物足りないと思うしっ…!だから返し……「断る」」

「え…っ!?」

「…さっき」

「…?」

「誰かさんが急に走り出したんで…後追って探してたせいで余計な体力消耗したんだよねェ」

「え」

「糖分取りてェと思ってたからちょうどいい。もらっといてやるよ」

「…何っ、その理屈…!っていうか…!じゃあ、その時あの美人にもらってたチョコを食べればいいじゃないっ」

「……」

意地でも離そうとしないNo nameにため息をつき、銀時は強引にNo nameが持っていたチョコにかぶりついた。

「…ちょ…っ!」

「悪ィけど、あいつからチョコなんてもらってねェから」

「……えっ!?」

「つーか、あのメス豚からんなもん受け取ってみろ、ストーカー行為がエスカレートするに決まってらァ」

「……」

「…ま、そういうこった。何勘違いしてたのか知らねェけどな。…とにかくうまかったよ、サンキュー」

「う…うまいって…し、市販なんだから当たり前じゃないッ」

「…あー…まぁそりゃそうか…」

「…そうよっ」

「んじゃさァ…来年から手作り頼む。義理丸出しのこんなんじゃなくて“No nameのチョコ”を食いてェから」

「…!」

銀時のその言葉にNo nameの顔は真っ赤に染まった。

「…わかったー?No nameチャン」

「…う、うん……っ」



…今年のバレンタインはNo nameにとって忘れられない日になりそうです。



(…あ、それからチョコレートパフェとだんご…イチゴ牛乳とかもつけといて)
(……銀さん、バレンタインの意味分かってる?)
(女の子が好きな男に愛を伝える日でしょー?……いいじゃねェの!それくらいのワガママ聞いてくれよォ。こんなことNo nameじゃないと言わないよー?これが俺の愛ってやつ?)
(……あーもうっ!その言葉ずるいっ……っていうかなんかうまく丸めこまれたみたいで悔しいっ!)



【おしまい】






((2012.02.14))

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