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「んー?なんだってー?」

「だーかーらー!今日は何の日でしょう?って聞いてるのッ」

いつものように机に足を乗せてジャンプを読んでいる銀時の肩にNo nameは後ろから手をかけた。

ジャンプの紙面から顔をあげて銀時は考える素振りを見せた。

「何の日ってお前……あー…」

「うんうん♪」

「あ……ごみの日?」

「………」


銀時の回答にNo nameは崖から突き落とされたような感覚に陥った。

「…何よ……それ」

思わず、肩にのばしていた手で銀時の首を握ってしまう。


「ちょ…!おま……!死ぬっ…!死ぬって!」

「そのままいっぺん死んでこい、このクサレ天然パーマッ」

「はァ?ちょ、おま…何、言って……」

「もう知らないッ!別れるッ!」


あまりの怒りにNo nameは我を忘れ、それだけ吐き捨て万事屋を飛び出した。


「…なーに怒ってんだ、あいつ」


一連の流れを見ていた新八と神楽が銀時の呟きに対して答えた。


「……銀さん、今日が本当に何の日か分からないんですか?僕でも分かるのに」

「しょーがないヨー、銀ちゃんそういうのに無頓着っぽいアルから」

「え、何…お前らも分かってんの、今日が何の日か」

「…ま、それも分からないようでしたら別れ切り出されても仕方ないと思いますよ」


新八のさも当たり前そうな返答は銀時にさらなる焦燥感を与えたようだ。


「わっかんねーよ!教えろ!お前らッ」


あぐらをかいていた神楽がきっちりと座りなおし、足の指でカレンダーを示した。

「それ見てゆっくり考えるといいネ」

「あァ?」


銀時は神楽に言われた通り、カレンダーの前に立ち、考え始めた。
そしてしばらく経ち、ようやく合点したように手をぽんと叩いた。

「あー、なるほど、誕生日ねェ」

「あーって……銀さん、本当に忘れてたわけじゃないですよね…?」

「忘れてたねェ…今の今まで」

「…あ。そうですか」


銀時はため息をつき、羽織を手にし腕を通す。

「んじゃ、ちょっくらわがまま女連れ戻しに行くかな」

「銀ちゃん、No nameがどこにいるか分かるの?」

「……あいつの行くとこくらい、見当ついてるさ」


*


「…で、迎えに来たわけなんですけどォ……頼むから、もーちょい妙齢の女が行きそうなとこにいろ。バカだろお前」


銀時がそういうのも無理はなかった。
No nameがいたのは、大通りから死角になっている裏道の捨てられた雑誌の山の隣だったのだ。

「……ここなら見つかりにくいと思って」

「まぁ確かにお前、身体華奢で小さいから見つかりにくいんだけどさ……そうじゃなくて!どーせなら俺が頭悩ますところにいろってんだよ!いや…No nameがここにいるって一発であてられる俺自身もどうかと思うんだけどさァ」

「……」

努めてNo nameを笑わせようとしている銀時だが、No nameは相変わらずの様子である。それを見た銀時はため息をつき、No nameの隣に腰を下ろした。


「…悪かったって」

「……許さないもん、っていうかあっち行ってよ」

「……。…あんま怒ってると老けんぞ?」

「…最低」

「……」

「……」

二人の間に沈黙が流れる。
このままでは埒があかないと思った銀時は割り切ったようにNo nameへ言葉を投げかけた。

「…誕生日、おめっとさん」

突然の言葉にNo nameは思わず銀時の方を見上げた。

「…え」

「プレゼントとかねェけど…そのーなんだ…俺、そういうのに疎いからさァ…そもそもダメ人間っつーのはお前も分かって……」


銀時が言い訳のように言葉を羅列するが、根本的に疑問を感じ制止の声をかけた。


「…ちょっと待って……銀さん…私が誕生日プレゼントもらえないから怒ってると思ったの……?」

「あれ、違うの?」


No nameの疑問に銀時はあっけらかんと答えた。


「…ごめん……銀さんに乙女心理解させようとした私が間違ってた……」


No nameはあきれたようにため息をつき、話を続けた。


「っていうか!んなわけないでしょ…!プレゼントなんかいらないって!私はただ…年に1回しかない自分にとって特別な日に好きな人と一緒にいたかっただけなの!なのにその相手が誕生日覚えてないとか言い出したら…怒るよね、普通!?」

「…」

「…でも、もういいよ。怒ってない!ここまで追いかけてきてくれただけでも実はちょっと嬉しかったし」


そういうNo nameの言葉に銀時は自分の髪の毛をかきながらため息をついた。

「ったくよォー…」

そういいながらもう片方の手をNo nameに向かって差し出した。

「…何?」

「何、って手差し出したら意味分かんだろ?」

「……それもそうだね」


No nameは銀時の左手に自分の右手を乗せると、銀時にきゅっと手を握られる。


「あー寒ィ」

すると銀時はわざとらしくそう呟いて着物の中に掴んだ手を忍ばせた。
これによって銀時がNo nameの半歩前を歩いているような形になる。

「えっ、ちょっと…何して…っ」

「だーから、寒いんだって。こーすりゃあったかいだろ?」

「…う、うん……」

──いや…確かに温かいんだけど…異様に銀さんとの距離近いしッ…恥ずかしいんですけど!


「さて…と、どこ行きてェ?」

「え、なんで?」

「…誕生日を好きな人と過ごすどうこう言ってたのどこの誰だっけ?」

「……言ったけどっ」

「何」

「…私はただ…銀さんと…今日も…これからも…一緒にいられればそれでいいかな…なんて」


言ったそばからNo nameの顔が赤く染まる。しかしそんなNo nameの言葉を銀時が軽くへし折った。

「はッ、くっだらねェ」


銀時から投げかけられた言葉は想像以上にNo nameの言葉を貫いた。


「…くだらないって……」

「あのなァ……そんな当たり前のこと言われてもどうしようもないんですけど」

「……!」


そこまで言って銀時はくるっとNo nameの方を振り返って言った。


「っていうか離れたら許さねェから」

「…あ、…うん……」

「分かればいいの」

そう言って銀時は少し笑って再び前を向いて歩き始めた。



しばらくして再び銀時が口を開いた。


「…まァでも」

「なに?」

「今日は誕生日だし、No nameの言うこと聞いてやるか」

「……え」

「…飽きるほど側にいてやるから、逃げんなよォ?」

「ちょっと待って…!それ、なんか嫌な予感しかしない…ッ!」



(なァ新八)
(何、神楽ちゃん)
(No nameと銀ちゃん、仲直りできたと思うアルか?)
(…愚問だね。今頃処構わずべったべたしてるに決まってるよ)



【おしまい】





((2012.02.13))

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