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「………」

「ちょっと!No nameさん聞いてる?」

「……」

「…だめだこりゃ、まったく聞いてないよ」

「どうしたアル?No name」


万事屋の居間のソファーの上で体育座りをしながら微動だにしないNo nameの姿を不審に思った新八が声をかけた。
しかし、声をかけどもかけども返事がないのである。


「…さァ?来たときからずっとこの調子。…銀さんと喧嘩でもしたのかな?」

「…それは違うッッ!」

「うわっ!ちょっと!いきなり噛み付いてこないで下さいよ!びっくりしたなぁもう……」

「………」


─喧嘩したときより、ずっとショックが大きいよ。心がえぐられたような。
─その原因を作ったのは紛れもない私自身なのだけれど。

幻だと思いたかった。
いつも肌身離さず身に着けていた。


「…そういえば、銀さんどこ行ったんですか?」

「さぁ?起きた時にはすでにどっか行ってたヨ、ねー、No name?」

「そうなんですか?」

「……?」

「No nameさん、知らないですか?銀さんがどこへ行ったか」

「……わかんない…」


というよりも朝から無くした指輪を探すのに必死になりすぎて気付かなかった。
だから、No nameの本音としては今、銀時に会いたくないのだ。初めてもらったプレゼントを無くしたなんて銀時には絶対にバレたくない。


「ま、どーせ仕事も来ないだろうし別に焦ることもないけど…」


すると新八がNo nameを一瞥して言った。


「No nameさんを早く慰めてやれよなー、あの銀髪」

「そうネ!惚れた女を泣かすなんて最低ヨ!」

「…ちょっと待って!なんで私が銀さんに泣かされたみたいになってるの?」

「え、違うんですか?」


No nameの問いに新八は驚いたように目を丸くした。


「違うよ……悪いのは私だもん…」

「え?……あれ、そういえばNo nameさん……」


と言いつつ新八の視線がNo nameの右手に向けられている。
その視線に気づいたNo nameはあわてて右手を隠した。


「おー、新八もう来てたのか」


その時、最悪のタイミングで銀時が部屋に戻ってきた。

「…あ、銀さん……おはようございます」

「…つーか何よ、みんなしてこんなとこ集まって。どした?」

「いや…別に……」

と言いながらも新八の視線は明らかにNo nameの方へ向いている。
その視線を銀時も追い、鎮痛なNo nameの表情を見て怪訝な顔をして言った。


「なに?お前ら俺のいない間に、No nameのこと泣かしたわけ?」

「違いますよ!」

「そうネ!そんなことするわけないヨ!」

「じゃあなんでNo nameのやつ、こんなふさぎこんでんの?」

「それは……」

「違うよ、銀さん。二人は悪くない……悪いのは私なの」

「はァ?」

No nameの答えに銀時はまぬけな声を発し、しばらくして合点したように続けた。

「……もしかして、朝起きて俺がいないんで寂しくて泣いちゃったとか?かわいいやつだなァ」

「違う!!」

「ちょ…お前…マジになんなって…っていうか違うってそれもそれで若干傷つくんだけど!」


No nameは堪えきれなくなり、意を決して銀時に切り出した。

「…無くしちゃったの」

「無くした?何を?」

「銀さんにもらった大切な指輪だよっ……いつも着けてたのに…朝起きたら無くなってて」

「……」

銀時は何も言わず黙っている。ここにいない方がいいと感じたのか、そのタイミングを見計らったかのように新八と神楽は部屋を出た。

─やっぱり…怒るよね……

銀時の顔を見ることが出来ずNo nameは頭をあげることができない。
すると銀時がNo nameに歩み寄ってきた。

「……っ」


すると次の瞬間に銀時の大きな手がNo nameの頭の上に乗った。

「…え…?」

No nameが思わず顔をあげると銀時のもう片方の手が目の前にある。


「探し物はこちらですか?」


銀時は少し微笑みながら言った。

「え……なんで…」

No nameは目を疑った。
それは紛れもないNo nameが無くしたと思っていた指輪だったのだ。


「バーカ。俺ァ万事屋だよ?……それに…No nameのことくらいすぐ分かる」

「……よかった……」

「なに?そんなに大切にしてたの」

「うん…」


銀時から受け取った指輪をNo nameは大事にぎゅっと握りしめた。

─だってこれがあると、私があなたのものだって毎日確認できるでしょ?


そんなNo nameの手を銀時は突然力任せに引いた。

「きゃ…っ!?」


No nameは当然のように銀時の中に倒れこむ。

「…今のお前、めちゃめちゃかわいいんですけど」

「な…っ!?」

「今ならなんでもしてやれる気がするけど」

「や…ちょっと、それは勘弁して…っ」

「やーだね♪その気にさせたNo nameが悪いってことで……」


No nameが顔をあげると、上から銀時のキスが降ってきた──。



(つーかお前そんな安もんでこんだけ泣くんだったら)
(…?)
(左手に着けるやつ送ったらどうなるんだよ)
(左手って……)
(ま、それはまだまだ先の話になりそうだけどな)



【おしまい】





((2012.01.19))
 

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