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「うぅー…」

No nameは机に突っ伏した。
…先ほどからため息をついては机に突っ伏し、そしてしばらく遠くを見つめたかと思えばまたため息をついて机に突っ伏す。
この繰り返しだった。そんなNo nameの様子を見兼ねたのか、隣りにいた来島また子が声をかけたきた。

「…なんなんっスか。さっきから…うざいんっスけど」

来島に注意され、No nameはぺこっと頭をさげた。

「……あ、ごめんなさい」

「悩みがあって困ってるって顔してるっス。一応聞いてあげますが、何かあったんっスか?」

「…なにもない……」

普段は気心知れた同僚なのだが、その同僚でも言えないことはある。
その返答に来島はため息をつき、核心をついた切り返しをしてきた。


「ま、どーせ晋助様関連でしょうけど」

「ぐッ」

ぴたりと言いあてられてしまい、反論することができずその代わりに顔がみるみる赤く染まる。


「…なんつーか、ほんと分かりやすいっスね」

「…来島さんが鋭すぎるんです!」

「ま…いいっス。恋愛ごっこにゃ興味ないんで」

そう言うと来島は部屋を出た。
打ち明けないなら一人でなんとかしろ…という意味だろう。
本当はNo nameだって、誰かに話したいのだ。しかし、恥ずかしすぎて簡単に話せる内容ではない。

─晋助さんと最近キスしてない、なんて。

付き合いたての頃はなんだかんだ言ってもそれなりの感覚でキスできたし、No nameが求めれば高杉も答えてくれた。
しかし、最近はそんな兆しがない……というよりも、高杉自身が何やら忙しそうでまともに話すらできないような状況なのである。

─あぁー、キスしたいなぁ……

傍からみれば、贅沢だとしか言いようのないような悩みとNo nameはしばらくの間、格闘していた。


*

そんなある日のことだった。

「え?祝杯?」

「そっス。なんでも晋助様が前々から進めていた計画の一部がうまくいったとかで、景気付けに」

いわゆる、呑みの会に誘いがかかった。

「…それって、晋助さんも参加するのっ!?」

「…なに言ってんスか。当たり前じゃないっスか」

No nameの素っ頓狂な返答に来島は面倒くさそうにつぶやいた。

「…あ、でも私お酒ダメだった……」

「あー下戸なんスね。でも晋助様がNo name誘えと言ってたんで来たらいいんじゃないスか?」


*

そして、その呑みの席のことである。
手元にあるオレンジジュースをちびちび飲みながら、晋助の様子をうかがっていた。
が、別段何かがあるというわけではなくいつものように河上万斉たちと話している。

「まぁーそんな辛気臭い顔してないで、呑んでください、No nameさん」

「た…武市さん…?」

そう言いながら、武市はNo nameの近くに置いてあったお猪口に酒を注ごうとする。

「余計なことすんじゃねーよ」

その寸前で高杉から制止の声がかかった。

「こいつの身体は酒一滴も受け付けねェんだよ」

「晋助さん……」

高杉の一言に武市は黙ってしまう。


「No name、こっち来とけ」

「はい…」

高杉は手招きをする。
そしてNo nameが高杉の隣に座ると、高杉はNo nameの肩に手をまわし、耳元で囁いた。

「悪かったな…あいつ変態なんだよ」

「……は、はい…」

高杉の声よりも息遣いがNo nameの耳にダイレクトに伝わってきて胸が高鳴る。

No nameは照れを隠すため、近くにあった飲みものに手を伸ばした。

「……あ」

それがオレンジのカクテルだと気付いた時には、No nameの視界がぐるぐると回っていた。

「あちゃー…自分で呑んじまったんスね、No nameのやつ」

「…」

高杉はため息をつきながらおもむろに立ちあがり、No nameの身体を軽々と持ち上げた。

「…別室でこいつの面倒見るから、後はお前らだけで続けとけ」

そう言い残して、No nameを抱えたまま高杉は部屋を出た。


*

何時間経っただろうか?

「……ん?」

「……起きたのか」

No nameの寝ぼけた頭に高杉の低い声が響いた。声がする方を見ると、高杉があぐらをかきながら寝ているNo nameの様子を見ていた。

「しっ……晋助さんっ……っていうか、私…」

「…とりあえずこれ飲め」

差し出したのは水の入ったペットボトルだ。
高杉の意図を理解したNo nameは指示にしたがった。おかげで頭がすっきりしてきた…
そしてそこでようやく部屋に二人きりだということに気付いた。

「あ、の…祝杯……は」

「残りのやつらに任せてきた」

「戻りましょうよ」

「いや、いい…No nameに用件もあったし、ちょうどよかった」

「用件……ですか?」

「……」


高杉は何も言わず、No nameの顎を持ち上げ突然唇を重ねてきた。

「……!」

そして一度、唇を離すと間髪いれずにまた唇を重ねる。…それはまるでNo nameに息をする隙を与えないように。

ようやく唇が離れるとNo nameは高杉の肩に頭をうずめた。
そして上目で高杉を見上げた。

「なんで……」

「お前の悩みを解消してやっただけだが……不満だったか?」

「し…晋助さん…なんで私の悩み……」

「さっき寝言で同じこと数十回呟いてたぜ」

「うそ……っ」

恥ずかしすぎて、No nameは思わず高杉から顔を背けようとする。

「クックック…させねぇよ」

そして高杉は笑いながら無理やりNo nameの顔を両手で挟み、視線を合わさせる。

「俺の出来る範囲でお前の悩みを解消すんのが俺の役目だろーが」

「……反則です、それ…」

「それに…」

「……え?」

「その悩みは俺もちょうど感じてたとこだ」


そう言って今度は高杉は優しく唇を重ねた。


(…今度からそういう悩みは言えよ)
(……え)
(クックック…)
(…し、晋助さん…?)
(すぐに叶えてやるから)


【おしまい】





((2012.01.04))

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