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「それで、No nameちゃん沖田さんになんて言ったの?」

「…嫌!やめてっ!って……」

No nameの返答を聞いて、志村妙はため息をついた。


「そりゃあ、そんなこと言われたら彼だって絶対怒ってるわよ…」

「…ですよね……でもっ」

「じゃあ聞くけど、彼氏なんでしょう?なんでそんな触れられるのが嫌なの?」

*

事の発端は、沖田とNo nameが江戸を巡回してる途中に起こった。
一通りの警備を終え、No nameがパトカーに戻ろうとしたとき、地面から少しだけ突き出ていた小石に気付かず、派手に転倒したのだ。
その様子を見ていた沖田は最初爆笑していたのだが、結局爆笑しつつ手当をしてくれた。

そこまではよかったのだが、そのあと少しの沈黙が続いたかと思えば、急に沖田に抱きしめられたのだ。
恋愛経験値が無に等しいNo nameは何が起こったのか分からず、思わず沖田を突き飛ばしてパトカーから飛び出してしまった。
屯所にも戻るのもなんだか気まずいので、これからどうしようと考えていた時、普段からよく相談に乗ってもらっている志村妙の家に訪れたのだ。

*

「…なんていうか…私、恋愛経験値ゼロじゃないですか。…だからどう反応していいのか分からないというか…」

「要するにただ照れてるだけじゃない」

「…ま、まぁそうなんですけど…だって!あんないきなり抱きしめられたらどうすればいいか分かんないじゃないですか!」

「…まぁでも。今回の一件は悪いけど、No nameちゃんの肩を持つことはできないわね…そりゃあ彼氏なんだから彼女を抱きしめたりしたいでしょ?」

「…お妙さんまで…!」

「まぁまぁ、でもこういうのも経験よ。これから徐々に慣れていけばいいわよ」


お妙が優しく微笑みながら言った。
No nameがしばらく黙っていると、無線に連絡が入った。

「…はい、今すぐ向かいます!」

無線を切り、志村家を後にしようとするとお妙が声をかけてきた。

「沖田さん?」

「違いますよっ!土方副長です。なんか、ケンカがあったとかで!私、行きますねっ」

「そう。じゃあ沖田さんと末永くお幸せに」

「……うッ」


再び派手に転びそうになるが、なんとか踏みとどまり妙の言葉には返事せずNo nameは現場に駆けだした。

*

No nameが現場だと指定された場所に行くと、パトカーの扉にもたれて土方が一服していた。

「副長っ!遅くなりました!No name、只今到着しました!」

「おー、待ってたぞ」

「…あれ?ケンカは…?」

「あー…あれ、お前を呼び出すための口実だよ」

「は?!なんで!?………あ、すいません。なぜですか?」

「……」

しばらく土方は何も言わず、煙草を吸っていたが意を決したように息を吐き出した。


「…お前、総悟となんかあっただろ」

思いもよらなかった土方の言葉にNo nameは思わず土方を凝視してしまう。

「…え。あの……なんで」

「あいつがいつもにも増して面倒くさくて困ってんだ」

「……あ…」

「まぁー、あれだ。総悟が何やったのかは知らねぇが…許してやってくれよ」

土方のその言葉にNo nameの思考回路が一瞬停止した。

「え?…あの…」

「?」

「なんで総悟が悪い…ってことになってるんですか?」

「は?違うのか?」

「…いや…どちらかと言えば、私が悪いと…」

「そうなのか…まぁ…どっちでも構わんが、あいつも反省してるみたいだったから許してやってくれ」

土方のその言葉に心の糸が切れた。
泣くつもりなんか無かったのにあとからあとから涙が溢れてくる。

「…お、おい…なんで泣くんだよ…」

なんでもなにも…
沖田はこんなにも自分を大切にしてくれていたのに…私はその意思を汲まず…突き放してしまったのだ。

「…す、すいません……」

でも、今は泣かせてください。
しかしそんなことが上官の土方に言えるわけもなく、ただ謝ることしかできなかった。
すると土方がため息をつきNo nameを抱きしめようとする。
土方の手がNo nameの背中に触れる寸前のところでNo nameは土方から離れた。
土方は突然のことに驚いたようにNo nameを見つめた。

「なんだっ、いきなり…」

「…いえ…あの……」

たとえ上官と言えど…今、総悟と気まずいと言えど…総悟以外の人に触れてほしくない……

「…何やってんですかィ」

しかも、その時最悪のタイミングで総悟が二人の前に現れた。

「総悟…お前…っ」

「土方さんがいつまで経っても戻らないんで、近藤さんに見てくるように言われたんでさァ」

口早にそう説明すると、沖田はNo nameの方を見向きもせずに土方に言った。
その態度にNo nameはまたショックを受けた。沖田の顔を見ることができない。

「さっさと戻った方がいいと思いやすぜ、土方さん」

「分かったよ」

土方が車のドアに手をかけると沖田は思い出したように付け足した。

「…土方さんの車にNo name乗せてやってくれませんかねェ?」

それだけ言うと自分も車に乗り込もうとする。そんな沖田の態度にNo nameは考えるよりも先に手が出ていた。
慌てて、総悟の右腕を掴む。


「…待って…っ!」

「…なんだよ」

「……」

引きとめたはよかったがその先の言葉を考えずにいたNo nameは言葉に詰まり、何も言えず、代わりに涙があふれる。
その様子を見た総悟はしょーがねぇなぁ、と小声で呟きながら土方に言った。

「やっぱこいつこっちに乗せて帰るんで、先帰っといてくだせェ」

「……遅くなるなよ」

土方は何もかも分かっているかのように、そう言い残しその場を走り去った。

「…総悟、…あの…私……」

「…謝るなら俺から謝りまさァ。No nameの恋愛経験値考慮するべきでしたねェ」

「……うっ」

「…でも、やっと手に入れた女なんだ、かわいくて仕方ねェんでさァ」

「…それ…どういう……」

言い終わる前に、総悟が優しくNo nameを抱き寄せた。

「だからこんなこともしてやりてェ」


あれ…
さっき同じことされようとして…逃げたのに、どうして今は大丈夫なんだろう…

「総悟……私…」

「ま、急にじゃなくていいでさァ。徐々に慣れていきゃァ…」

沖田のその言葉を聞いて、No nameはやっと分かったような気がした。

「私…さっき…土方さんに抱きしめられそうになって……感覚的に拒否しちゃった…でもだから分かった。…私、総悟以外に触れてほしくない」

「今、土方さんの話は止めてくだせェ」

「え?」

「No nameが拒否したの分かっててもさっきの見ちまった手前、土方さんをぶっ殺したくなってしまうんでさァ」

「それって……」

「妬いて……んっ!?」

その続きを言おうとした瞬間、No nameの唇を沖田の唇でふさがれた。

「その先は言わせやせんぜェ…俺だけそんな感情持つの不公平だろィ」

ずるい…そんな言葉。
しかしそう思う一方でそんな沖田の言葉が嬉しくて、No nameの顔が真っ赤に染まってしまった。
そして、同時に総悟に対する感情が爆発した。


「…大好き」

No nameの言葉を聞いて総悟はふっとほほ笑んで言った。





「…知ってまさァ」


そしてまた優しくキスをした。


(あら、No nameちゃん。この前来た時の死にそうな顔が嘘みたいね)
(…え、いや…あの……)
(いいことあったんでしょ)
(あ…はい…まぁ)
(あー、腹立つ。何そのニヤケ顔。殴っていいかしら?)
(え、ちょっと!なんでそうなるんですかっ!?)


【おしまい】





((2011.12.31))

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