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『総悟!No name!標的はお前らの近くに移動中だ!命令を出し次第確保!』
「こちらNo name。了解です。偵察に向かいます。………ほら、総悟!行くよっ……って総悟??」
「…んーなんですかィ…?」
「…っつーか…何やってんの、あんた……」
No nameが沖田がいる方に目を向けると、目の前に並べられたご馳走の数々にかぶりついている。
「だーって、将軍の警護とは言えこんなパーティに参加するなんてもう経験できないかもしれないんですぜィ?だったら食うもん食っとかないと……」
「いや…間違ってないんだけど。っていうか私もさっきから食べるのガマンしてたのに!なんでそういうこと平然とやってのけるかな、あんたは…」
「もちろん仕事も両立してまさァ…土方さんの無線も聞こえてやしたしねェ」
「…食べたまま標的確保できないでしょーが!」
──突然ですが、私たち新撰組は将軍家で開かれたパーティに警護として参加しています。招待客に扮した攘夷志士を捉えるために、松平さんから命が下ったためです。
ただし、私たちが警護の新撰組と気づかれないために服装はパーティ向けのスーツやらドレスやら……さらに、二人一組で組むように言われ、私とタッグを組むことになったのが…今私の前で御馳走を頬張っているこのクソ生意気な後輩の沖田なのである。
「おっ!うんめぇ♪No name姉さんも食べた方がいいですぜェ」
「…標的確保した後でね」
「ちッ…つまんね」
「ってゆーか、あんたは仕事をなんだと思ってるんだ!」
「…別に。言われた通りに攘夷志士捕まえりゃ問題ないんだろィ」
その時、土方から無線に呼びかけが入った。
『No name、総悟!確保に向かえ!』
「……了解」
No nameは土方の命令を聞き、その男の確保に向かい走り出した。
標的とされる男はNo nameの追撃に気がついたのか、途端に走りだした。
「待ちなさいッ!」
「……くッ」
距離がどんどん詰まっていき、No nameの射程範囲内に捉えた瞬間、その男が突然持っていた刀を抜き、No nameの方へ向って突進してきた。
「…えっ!?嘘っ……!」
あまりに突然なことでNo nameは身動きが取れなくなってしまう。
「や…ば…ッ」
「ったく…これが仕事どうこう言ってたやつのザマですかねェ」
「!」
ため息をつきながらいつの間にかNo nameの前にいた総悟が冷静に対処に、その男はあっという間に確保に追い込まれた。
「大丈夫ですかィ、No name姉さん」
駆け寄ってきた総悟がNo nameに手をさしだした。
「……あ、ありがと…」
総悟の差し出した手を遠慮なく借りたNo nameは立ちあがり、礼を述べた。すると総悟はその様子を見てにやりと笑って言った。
「ほーらね?両立してるって言っただろィ」
「まったく…どこまでも生意気なんだから……あーぁ、もう服装乱れてるし…最悪」
「厠行ってくりゃいー話でしょ」
「分かってるわよ!つーか仮にも年上の女性に向かってそんなこと言うか!普通!…まったくもうッ」
No nameは総悟のツッコミにイライラしながら厠に向かった。
その様子を総悟は後ろから面白そうに見つめていた。
*
「あーもうっ!最悪っ!総悟に手柄取られるわ、御馳走食べ損ねるわ……ありえないぃぃぃぃぃいいいい」
No nameはひとしきりたまった不満を吐き出し、乱れた服装を元に戻し、厠を出ようとした。
その時、見知らぬ男がNo nameに話しかけてきた。
「いやぁー、見てたよさっきのいざこざ」
「…はァ?」
「君のおびえた表情よかったねー、僕のツボを見事についてきて…もう最高さ!」
「え…ちょっと…」
何言ってんの、こいつ。
頭…大丈夫?
「…もっといじめてやりたいんだけど、君さえよければどう?僕と付き合わない?」
No nameが答えないでいると、一方的にべらべら話し始め、勝手に話を進めようとする。
「丁重にお断り申し上げます」
「まぁそりゃいきなり告白を受け入れる人はいないか……じゃあどう?ここに連絡くれる?」
「結構ですッ!」
No nameはだんだんとイラついてきてつい勢いで怒鳴ってしまった。
「堅いこと言うなよぉ…ちょっと遊ぶだけだ・か・ら♪」
しかし、No nameのそんな怒りもこの男には通用しないようだった。
気がつけば、No nameが動けないように両脇の間に手をつかれ、壁まで追い込まれていた。
…しまった……!
するとそんな恐怖をよそに男の顔がどんどん近付いてくる。
もう少しで顔と顔が触れる…寸前で横から声が飛んだ。
「…その辺にしといてもらえますかねェ」
「誰だ!」
「…新撰組一番隊隊長。沖田総悟でィ」
「新撰組が何の用だ、まさか女を口説くのが違反だなんて言わないよなぁ?」
「んなわけねーだろィ…でもこいつはダメだ」
そう言いながら、沖田はこちらにどんどん向かってくる。
「あ?」
「…こいつ、俺の女なんでェ」
そういうと、無理やり男からNo nameを引きはがし、自分の方へ抱き寄せた。
「……!」
「…なんだよ、男持ちだったのか」
男はNo nameを一瞥し、舌打ちをしながらその場を離れようとした。しかしその直前で総悟が言葉を投げかけた。
「あんた、将軍様の付き人だろィ?この一件ちゃぁーんと上に報告させてもらいますんでィ」
「……なッ」
「んじゃ」
そういうと総悟はNo nameの手を引いてその場を後にした。
*
「…えっと…総悟……?」
「嘘も方便ってやつでさァ」
「あ…ぁ、やっぱり……?」
「なんでィ、嘘じゃない方がよかったんですかィ?」
「…ばっ……そんなこと言ってないっ!」
「なーんだ、俺は別にそれでもよかったんですがねィ」
「…はァッ!?……っていうか…ちょっ…」
総悟がNo nameが続けようとする言葉を遮ってNo nameを優しく抱きしめた。
「…だめですかィ?」
「……それ…っ……ずるいっ!」
「…じゃ、No name姉さんは正式に俺の女ってことで!」
「……わかったわよッ」
…だって二回も助けてもらって、惚れるなって方が難しいでしょ?
(後日談)
(あ、No nameに手出したあの男、女たらしで有名だったらしいんでさァ)
(最低ね)
(心配しなくても大丈夫でさァ)
(何が?)
(将軍様に報告して…あいつの前科丸裸にして解雇処分にしてやりましたから)
(総悟…やっぱ…あんた恐ろしいわ……)
(俺の女に手ェ出したのが間違いなんでさァ)
(…その緩急差混ぜてくるの反則)
【おしまい】
((2011.12.30))