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「沖田先輩、仕事してくださいよー、こんなとこで寝てないでぇっ」
「おい、母ちゃん、今日は日曜だぜー?まったくおっちょこちょいなんだからー」
「今日は火曜日です、先輩。っていうかこのやり取りどっかで見たことあるんですけど」
「そーだったかぃ?忘れちまったぜ」
「…冗談いいんで、っていうか土方さんに怒られちゃうじゃないですかーっ!お願いですー!起きてくださいっ」
「やだね」
「こどもかっ!…そうじゃなくて…いや、ホントお願いします。土方さんに怒られるの私なんですからねッ!?」
「土方、土方うっせーなぁ」
突然寝転がっていた沖田がむくっと起き上がって隊服の袖をつかんだ。
「ちょ…何するんですか!?」
「なぁ?No name」
「な…なんですか…?」
「そっちからキスしたら仕事してやるけど?」
「はぁ?キスぅ?するわけないじゃいですか…っていうかおもしろくない冗談いいんで、仕事しましょ、ね?」
「どーあっても聞かねーかぃ」
ボソっとそう呟いてさっきより力をこめてNo nameの腕を引っ張った。
「きゃ!?」
No nameが気づいた時には完全に唇を奪われていた。
「!」
「いただきでィ」
意地悪そうにそう微笑むと沖田はゆっくり顔を離した。
No nameはとっさに平手打ちを喰らわせていた。
「冗談でも…してはいけないことと悪いことがあるでしょ!?…先輩なんて…大っ嫌い!!!!」
No nameはそのままかけ出した。
その後ろ姿を見つめながら沖田は頬をおさえ、ふっと微笑んだ。
「まんざらでもねぇんだろィ」
※
最低最低最低…
まさか…初めてのキスを…あんなふうに奪われるなんて…
No nameは無意識に唇を血が出そうになるくらいにこすっていた。
なぜだか涙まででてきた。
…ひどいよ…
「おーい、No nameっ」
突然土方に呼ばれた。
…しまった、泣いてちゃいけない…っ
「…なんですか?」
「悪ぃけど、この仕事頼むな」
「はい!わかりましたっ」
「さんきゅ」
与えられた資料を覗くと心臓が止まりそうになった。
沖田と2人で出かけることだったからだ。
嘘…
さっきの今…?
絶対無理っ
「土方さ…」
いない…っ!?
…行くしか…ないの…?
※
「何分待たせりゃ気ィ済むんだ?」
「…すいません」
「行くぞ、隣、乗れよ」
「…嫌です」
その返答に沖田が軽くにらんでくる
「はぁ?」
「…何されるかわかんないんで」
「何お前、またキスされると思ったわけかい?」
「…!」
「まぁ、あながち間違ってねぇけどなァ」
沖田はNo nameの腕に触れようとする。
「…触んないでっ!」
「…」
「…す、すいません…」
「許さねェ」
そう言うと沖田の手が迫ってくる。
…ヤダ…っ
…
…
…あれ…?
おそるおそる目を開けると沖田がまた意地悪そうに笑っていた。
「嘘」
「…へ!?」
「そんな拒否されてんのにしたってつまんねーや」
「…先輩」
「…なぁNo name」
「…な、なんですか?」
「俺がなんでキスするか分かってねーんだろィ」
「…?」
首をかしげるNo nameに沖田はため息をつくように言った。
「想像はしてたが…やっぱりか…まぁ、言わねぇ方が個人的にはよかったんだが…飽きた」
「はぁ?」
「俺があんたをいじめるのはあんたのことが好きだからでさァ」
沖田は真っ直ぐな瞳をNo nameに向けて言った。
不覚にもNo nameはその顔にドキッとなってしまった。
「…何よ……それ…」
「男って生き物はねェ、相手が好きであればあるほど…いじめた時にどんな面するのか気になってしょうがねェもんなんでさァ」
「…それって先輩がただ単にドSなだけじゃ……」
「ま、それもあるかもしれねェが」
言いながら沖田はフッとほほ笑んだ。
「…ま、俺を惚れさせたNo nameの責任でさァ」
(結局責任転嫁っ!?)
(このドS隊長め…!)
(でも…さっきの顔つきにきゅんとしたなんて)
(この男の前では絶対に言ってやんないんだけどね)
【おしまい】
((2011.12.29))