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それは突然の誘いだった。

「おーい、No name」

「何?」

「新しい甘味処できたから付き合え」

「…はぁ?」

「いいから」

「人選ミスってんじゃないの!?なんで私っ!?」

「お前なぁ……人が真面目に誘ってるのにミスってなんだよ…」

「いやそりゃ言いたくもなるでしょ!?散々いっつも人のことバカにしてるくせに!?」

「あー…悪ぃ悪ぃ。んじゃその件は一旦忘れて」

「なんなのよ…それ…」

「ま?別にNo nameじゃなくてもいいんだけどさ、なんつーか、そのー……No nameと行きたい気分だったから誘ったんだけど」

「……熱でもあるんじゃないの?銀さん」

「かわいくねーな、お前」

「…じゃあ日ごろの行い見なおしてからそういうこと言ってよね…つい銀さんからの言葉だと身構えちゃう」

「あん?」

「嫌味言われるんじゃないかって!」

「てっめー!」

「……嘘だよ。嬉しかった。じゃあ週末ね!」

「……へいへい」

突然の誘いにNo nameは驚いたが、密かに銀時に恋心を寄せる者として、この誘いが嬉しくないわけがない。
だが、普段からどうも銀時に対する気持ちを意識すればするほど発言の一つ一つに毒が混ざってしまうのだ。


「素直になりたいよ、ほんと…」


No nameはため息をついた。
そんなNo nameの様子を銀時はじっと見つめていた。

*

「おいしー!」

「だな」

場所は銀時に指定された甘味処である。

「それにしても…」

店に入りしばらく経った頃にNo nameはずっと疑問に思っていたことを銀時にぶつけた。


「ん?」

「なんでまた私を誘おうとしてくれたの?」

「…ぐっ」

No nameの質問に驚いたのか、銀時は頬張っていた抹茶パフェをのどに詰まらせた。

「…え!?ちょっと…!大丈夫!?」

「お前がいきなり変なこと聞くからだろうが!」

「え!?そんな変なこと聞いたおぼえないんだけど!」

「うるせー!このバカ女!」

「ば…バカっ!?バカって言ったっ!?」

「あー!言ったよ。お前はバカだ!」

「なんで!?」

「あーぁ、せっかくの気分ぶち壊しだよ…どーしてくれんだ、コノヤロー」

「それを私のせいにするってわけっ!?」

「お前以外の誰に話振るっつーんだよ!」

「…もういい!帰るっ!銀さんのバカっ」


No nameはイライラが最高潮に達し、言葉を吐き捨てその場を飛び出した。

*

「ってゆーか私悪いことしてないよね!?」

さっきまでの出来事を思い出しながらNo nameは家までの帰り道をとぼとぼ歩いていた。
だが、次第に後悔が蘇ってくる。

「…聞いちゃいけないこと聞いちゃった私も悪いのかなぁ」

それを聞かれることで銀さんはどう思った?
嫌…に思ったに違いない。
だとしたら嫌われても仕方ない……
そう思うと次第に涙が溢れてくる。

ずっと下を向いて歩いていたせいか、No nameが気づいたときには周りの景色は全く知らないものへと変貌していた。

「…やばっ…迷った…?」

戻ろうとするにも、どう歩いてここまでたどり着いたのかまるで覚えていない。
思い立って携帯で銀時に連絡しようとするが躊躇ってしまう。
発信ボタンを押すか押さないかでで迷っていると時間はあっという間に過ぎ去り、あたりは暗くなってくる。
途端に心細くなって、また涙があふれ出してくる。

「…どうしてこうなっちゃったの……」

もとはと言えば…私が銀さんの触れられたくない部分に触れてしまったから…
そして、そのあと銀さんを置き去りにして勝手に店を飛び出して、勝手に道に迷っただけ……

…全部私が悪いんじゃない……

No nameは情けなくて、悔しくて途方に暮れていた。

「銀さん……」

No nameは先ほどまで一緒にいた男の姿を思い浮かべていた。
その時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。


「…どこに目ェつけて歩いてんだよ、テメェは……」

「!」

今まさに思い描いていた人物の声である。

「銀さん……?…どして…」

「それはこっちのセリフだバカヤロー。テメェの家と真逆の方向行くやつがあるか!あれか!そんなに俺様に追いかけてきてほしかったのか!」

「違……!そんなんじゃ…」

「はいはい、言い訳は結構でーす」

「……っ」


なぜだか分からないがNo nameの目にまた涙が溜まり、それがあふれ出しそうになる。
そんな様子をじっとNo nameは銀時に見られているのが分かった。

「……」

…またいつも通り嫌味言われるんだろうなぁ…
さっき口げんかしたばっかりだし……
No nameはそんな予感を頭に抱いた。
すると頭に何か乗ったような感触がし、そっと銀時の方へ視線を移した。



「…いい子だから、もう泣くな」


今まで、No nameに対して向けたことがないような穏やかな笑顔を向け、さらにNo nameの頭を優しくなでながら銀時は言った。
その笑顔にNo nameの胸が高鳴った。


「…あの…銀さん……」

「ん?」

(…やっぱりどんなにいがみ合ってても私……あなたが大好きです。)
そんな感情が溢れて出してきたが、その気持ちをぶつけることができない。

「……あ…な、なんでもない……」

「そーか」

「…」

「んじゃ、送ってくわ」

「うん…」


その間、何を話していいのか分からずお互いに無言を貫いた。
そしてNo nameの家が近づいてきた時、銀時が口を開いた。

「さっき甘味処で聞いたよな?」

「え?」

「なんで今日お前を誘ったか」

「あ……うん…」

まさか銀時から話しだすとは思わず、No nameはなんだか気まずい雰囲気になってしまう。


「No nameはどう思ってる?」

「え?」

突然話を振られて思わず詰まってしまった。

「えっと……適当に視界に入ったからとか?」

「アホか」

ツッコミ口調でNo nameの額を小突いてくる。

「…まぁーその…なんだ、どーにかしたかったんだよ」

「…?」

No nameは銀時の言葉に意味が分からないというように首をかしげた。


「…あー、お前バカだからこういう時ストレートに言わないとダメなんだよなぁ」

「言うって…何を……」



No nameが続きを言おうとすると突然銀時はNo nameを抱きしめた。
あまりに突然のことでNo nameは驚いて身体が硬直してしまう。


「……ぅえ!?」

「つまり、お前が好きだからってことだよ。好きで好きでたまんないから、どーにかしたかったってこと。分かった?」



(…またバカって言った……)
(でもそれよりも嬉しいから)
(帳消しにしてあげるよ)


おしまい。




((2011.12.29))

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