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「…そういうわけで、正式に異動が決定しちゃったの」

No nameは銀時の反応を窺うようにそう言った。しかし、それを聞いた銀時の反応はNo nameが予想していたものとは全く逆で、No nameの話を聞くというよりも今自分の目の前にあるイチゴパフェをどこから片付けるのかに神経を集中させておりまるでそっけない。

「ふーん」

その返事のあまりのそっけなさにNo nameは思わず座っていたイスからずり落ちそうになった。

「…ふーんって…え…?」

「何だよ?」

そう言って返した銀時の表情はまるで自分の返答の何が不満なんだとでも言いたげである。

「…普通もっと驚かない?」

No nameがそう尋ねると、銀時は生クリームのホイップを口に運びながら答えた。

「いや?だってお前、前から地方に飛ばされるかもって言ってたじゃねェか」

「それは…そうだけど……」

─普通もっと動揺してくれてもいいんじゃないの…!?
No nameは喉まで出かかったその言葉をぐっと飲み込んだ。そんなことを言ったところで銀時がとてもNo nameが望むような言葉を投げかけるとは到底思えなかった。
No nameがしばらく黙っていると、銀時が口を開いた。

「…で?いつまでこっちにいんだ?」

「来月の頭には向こうに行ってなきゃいけないみたいだから…そうグズグズもしてられないって感じかな」

「来月ねェ…随分まァせわしい話なこった…」

そう言いながらも銀時の興味は相変わらずパフェに向いているようで、何が楽しいのかイチゴをフォークでつついている。
No nameはなんだかむなしい気持ちにさせられた。
確かに、銀時と付き合い始めてから相当な年月が経過しているため、最初のような燃え上がる気持ちも高ぶっていた感情も薄れていくのは分かるのだが、それにしたって今の銀時の返答はあまりにもそっけなさすぎる。

「No name…おい、No name」

No nameははっとして顔をあげた。
銀時が少し眉間にしわを寄せてNo nameの顔を覗き込んでいた。

「…あ、えっと…どうしたの?」

「どうしたの?じゃねェよ。だいぶ時間経っちまってんじゃねェか…ぼちぼち帰んぞ?」

銀時に指摘され、No nameは腕時計に視線を落とした。どのくらい考え込んでいたのだろうか、すっかり銀時の注文したイチゴパフェが空になっていた。

「…そうだね」

No nameはそう言って、立ち上がった。


*

今日もそれまでと同じように、銀時がNo nameを家まで送るため、当たり前のようにNo nameの隣を歩いていた。
その道中もいつもと同じように、万事屋での仕事の話や新八のツッコミについて、神楽の奇想天外な行動についてなどを銀時は面白おかしく話している。
そんな銀時の横顔を見ながら、No nameは考えていた。

─もしかして、今回の事で少しでも寂しさを感じているのは私だけなのではないだろうか?
─銀さんは私がいなくても平気なのではないだろうか。
─もし、たとえば離れている間に何かが起こってもう二度と会えなくなったら……?

そんな不安な疑問ばかりがNo nameの心の中に何度も何度も浮かんできた。
No nameは銀時にばれないようにため息をついた。

間もなく、No nameの家に着こうかという頃、銀時はおもむろに足を止めて、No nameの瞳をじっと見た。

「…No name」

「…何?」

あまりに真剣そうな銀時の瞳にNo nameは思わずドキドキしてしまう。
銀時はNo nameの心を何もかも見透かしたように言った。

「二度と会えなくなるわけじゃねェよ」

「え……」

「どうせ、No nameのことだから」

「…?」

「俺がいつもと変わらねェ態度で接するんで、俺がお前のことどうでもよくなったんじゃねェかとか…いなくなって清々してんじゃねェかとか考えてたんだろ?」

「……」

図星だった。
No nameは思わず黙ってしまった。

「言っとくが、俺はお前が思ってるほどガキじゃねェ」

No nameが銀時の言う意味が分からず首をかしげると、銀時が続けて言った。

「…だから、お前の異動が決まったからって離れたくねェとかガキくせェことは言わねェってこった」

「ガキくさいとか…いい年して未だにジャンプ愛読してるだダメ人間が何言ってんだか……」

No nameは悔し紛れにそう言うが、銀時にはまるで堪えていないようで、銀時は笑いながら“言うじゃねェの”と言ってNo nameの頭をワシャワシャとなでた。

「そんなダメ人間に惚れたのはどこの誰だっけなァ?」

「…うるさいっ」

No nameが少し照れた様子でそう言うと、銀時は諭すように続けて言った。

「…ま、寂しくなったら他人様に迷惑かけねェ程度に仕事放り投げて帰って来い。んじゃーな」

いつの間にかNo nameの家に着いていた。
銀時はそれを見計らったように一方的にそう言ってくるりとNo nameに背を向けて手をひらひらと振り、その場を後にした。
帰っていく銀時の後ろをNo nameが見つめていると、銀時は思い出したように振り返った。


「…あー、あとついでに言っておくが」

「何?」

「心配しなくても俺が惚れてんのはNo nameだけだよ」



(…あ?)
(だから…異動先が江戸の隣町なんだってさ)
(…お前、地方に飛ばされるって言ってなかったか?)
(…いきなり私みたいなのを地方に飛ばすわけないだろ!って怒られちゃって…)
(…なんだよ…それ……)







((2013.03.28))

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