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「腹減ったぁ。No name、なんか作って」

「…人の部屋に突然やって来て何かと思えば…腹減った?」

No nameは顔をげんなりさせ、目の前でニコニコしている神威を見つめた。

「仕方ないじゃん。腹減ってんだもん」

「……」

No nameはふと嫌な予感が頭の中をかすめた。あの神威がただ飯を食らうためだけにNo nameの部屋にやって来たとは思えなかったのだ。ただ、追い返す理由も見当たらなかったので、No nameは仕方なく神威を受け入れた。

「…なんでもいいの?」

「勿論」

満面の笑みの神威を見ていると、No nameは何故だか妙な感覚がした。

*

さすが空腹を訴えるだけあって、No nameがテーブルに並べた料理を神威は片っ端から放り込み、あっという間に皿が空になっていく。その食べる速さを見ていると改めて神威が夜兎の一員だということを思い知らされた。
No nameがそんな神威の様子をじっと見ていると、神威はふと思い出したように口を開いた。

「あーそうそう」

「…何?」

「俺、やっぱNo nameが好きなんだよね」


No nameは自身の耳を疑った。
と同時にあまりの唐突さに座っていた椅子からずり落ちそうになった。
しかし、そうは思いながらも自分の悪い予感が的中していた。神威が部屋にやってきた瞬間から“それ”を告げられるのではないかという予感があったのだ。しかし、そのタイミングがあまりにも唐突過ぎて、驚きの方が勝った。


「……は?」

No nameは思わず素の声をあげる。

「だから、俺。No nameのこと好きなんだって」

神威はもう一度丁寧にそう言った。

「…神威。あんた、好きって言葉の意味知ってる?」

「No name。俺のことバカにしてる?」

No nameは大真面目に聞き返したつもりだったのだが、それは神威にとって不満だったようだ。笑顔なのに変わりはないのだが、目だけは笑っていない。

「…おかしいなぁ。私の気のせい?好きって言葉って思いつきで言うもんじゃないわよね?なんかこう…もっとロマンチックな雰囲気の中で聞くものだと思ってた」

「ふーん。…じゃあ聞くけどNo nameは俺がそういう雰囲気をわざわざ演出して告白するようなタイプに見えるかい?」

「見えないわね」

No nameはぴしゃりと言い払った。
神威がそういう演出を試みている様を想像しようとしたがものの数秒で諦めた。

「っていうかNo nameが悪いんだよ」

「…何よいきなり。なんで突然私のせいになってるわけ?」

「俺に何回も好きって言わせるからさ」

「…それが、どうして私のせいになるわけ?」

「いい加減俺のことちゃんと見てくれてもいいんじゃないの?ってこと」

「…言いたいことは分かるけど、なんで今言った!?」

「ふと思いついたように装えばNo nameも首、縦に振るかと思って」

そう言うと神威はデザートに置いておいたフルーツの盛り合わせの中からパイナップルのかけらを一つ掴んで口の中に放り込んだ。


「…よくもまぁ、そんな態度でOK貰えると思ったわね?」

「No nameが俺の気持ちに答えずに毎回毎回言葉をはぐらかすからさ」

「…だったら何度でも言うけど、私はあんたをそういう対象として見てないのよ」

「No nameは見てなくても俺は見てる」

「…みたいだね」

No nameはいい加減、適当な態度の神威に真面目に応答するのがバカらしくなってきたので、適当に淡々とそう返した。
そしてNo nameはふと思いついたように付け加えた。

「…忠告しとくけど、他の子に好きって言うんだったらそんな風に言っちゃだめよ。絶対本気にされないから」

「他の子に好きなんて言わないさ。俺が好きなのはNo nameだから」

「あーはいはい。分かった分かった。…神威はそうでも私はそうじゃないから」

「そう言いつつ、No nameって俺のこと拒絶したりしないよね。頼んだら今日みたくこうやって飯作ってくれるしさ」

「拒否ったら、神威の場合面倒くさいでしょ」

「でも俺のことちょっとは好きだったりするんじゃないのかい?」

「…別に嫌いじゃないけど。そういう意味不明な自信家でしつこいところは嫌い」

「お。言ってくれるじゃん?」

「言わなきゃ分かんないでしょ」

「まぁでも、俺がNo nameのこと好きなのには変わりないから」

「…いい加減しつこいよ、神威。私は好きじゃないって言ってるでしょ?何回言えば分かってくれるのよ、全く」

面倒くさそうにNo nameがそう言うが、一方で神威は大真面目な顔をして言った。

「残念ながら、諦めてくれって言われて、ほいほい簡単に引き下がるタマじゃないもんで」

「……」

「っていうか何そんなにムキになって拒否るんだい?他に好きなやつでもいるわけ?」

「そんなのいないわよ」

「じゃあ俺になびく可能性は0%じゃないわけだ?」

「…まぁそういうことになるわね」

No nameがそう言うと、再び神威の顔は満面の笑みに包まれた。
そんな神威の気持ちをぶち壊すように、No nameは低い声で付け加えた。

「まぁ、今は0%だけどね」


「いいよ。俺、No nameが首を縦に振るまで100回だろうが1000回だろうが…可能性があるんだったら何度だって好きって言い続けてやるからさ。覚悟しなよ」


そう宣言した神威の笑顔は今日一番輝いていた。



(黒い……)
(黒い…?何が?)
(あんたのその笑顔以外ないでしょっ)







((2013.03.21))

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